先にも述べましたが、何か熱い物に触れたとき、サッと手を離すのが脊髄反射です。知覚神経によって伝達される「熱い!」という信号を、いちいち脳が判断していたら酷い火傷を負いかねません。そういうときは、脊髄が即座に「手を離せ!」という決定を下し、緊急事態から身体を守っているのです。
脳の気持ちは物を掴もうとしているのに脊髄は手を離すよう決定するという、この脊髄反射同様の、現地判断の重要性を孫子は説いています。それと共に、現場指揮官の心構えと覚悟が、地形篇その三の内容となっています。
先にも述べましたが、何か熱い物に触れたとき、サッと手を離すのが脊髄反射です。知覚神経によって伝達される「熱い!」という信号を、いちいち脳が判断していたら酷い火傷を負いかねません。そういうときは、脊髄が即座に「手を離せ!」という決定を下し、緊急事態から身体を守っているのです。
脳の気持ちは物を掴もうとしているのに脊髄は手を離すよう決定するという、この脊髄反射同様の、現地判断の重要性を孫子は説いています。それと共に、現場指揮官の心構えと覚悟が、地形篇その三の内容となっています。
組織や活動体が弱まってきたときに、所属する者たちに起こりがちな六つの状況の続きです。
その第四は「崩」で、内部分裂によって壊れてしまう様子です。これは、将軍と副将が仲違いし、怒った副将が将軍の指示に従わなくなり、その亀裂を突いて敵が攻めて来たときに起こります。
窮地に陥った副将は、いよいよ将軍を怨み、もう自己判断で戦うしかありません。一方将軍は、そういう副将を益々無能と判断し見捨てます。憐れなのは部下たちで、どちらに付いて行ったらいいのか皆目分からなくなり、とうとう全面崩壊に至るわけです。
組織や活動体が弱まると、そこに所属する者たちに六つの状況が起こります。
その第一は「走」で、走って逃げ散る様子です。これは、全体としては「敵味方の勢力が等しい」のに、敵の分断策によって分散させられてしまったときなどに起こります。個々の戦闘場面で「一でもって十を撃つ」しかない事態に陥るのです。こちらは1割の勢力に過ぎないのですから、「軍隊は散り散りになって」勝手に走るばかりとなります。
組織や活動体が弱まると、走る・弛む・陥る・崩れる・乱れる・北(に)げるという六つの状況が起こります。孫子は、これらは決して天の災いなどではなく、指導者の過ちであると断言しました。
それぞれの状況毎に、そうなる原因があります。将たる者は、普段からしっかり自己観照し、敗北に至らぬよう心しなければなりません。
第五は「険」で、その地形を「険形」と言います。これは、敵味方どちらにも危険の多い地形です。険しい場所である険形は、隘形と同じく、どちらが先に入っているかが問われます。
そこで、「こちらが先居しているときは、必ず南を向いた高地を確保して敵を待て」と。日当たりの良い南向きの、上から下りながら攻めていける高地を占めておけば、断然有利となります。
第三は「支」で、その地形を「支形」と言います。これは、こちらが行くにも不利、相手が来るにも不利という地形です。「支形では、敵が利で誘って来ても、こちらから出てはいけない」とのことで、焦らないで「一旦退却し、敵を半ばまで出させてから撃てば有利に」なります。
そもそも「支」は分かれた枝道のことです。支形は、左右に分岐していて、どちらにも行ける二股です。二股なら、どちらを進んでも良いようですが、もしも味方が半分しか進んでいない(抜けていない)ところへ、もう一方のルートを進んで来た敵によって横を突かれたら大変です。
勝つためには、地の利を得なければなりません。戦場の地形をよく観察する必要があり、その第一が「通」です。通の地形、即ち「通形」は、敵味方どちらからも向かい易い状態にある地形のことです。四方に通じており、「こちらから行けるし、相手からも来られる」という進み易い地形です。
これを、仕事や人間関係における状況に置き換えてみます。双方どちらからも進み易い状況にあるというのですから、こちらがモタモタしていれば、相手は遠慮無く向かって来るという様子でしょう。
勝つためには、地の利を得なければなりません。そこで孫子は、戦場の地形を次のように6分類しました。
・通形…敵味方どちらからも向かい易い地形
・挂形(かいけい)…行くことは出来るが、帰ることが難しい地形
・支形…こちらが行くにも不利、相手が来るにも不利という地形
・隘形(あいけい)…狭い場所
・険形…険しい場所
・遠形…遠い場所
「教育で部下と心を合わせ、武威で部下を統制する」ことの重要性を述べた後に、孫子はもう一言付け加えます。それは軍法や軍律など、法令の徹底です。それが平素から守られているかどうかについて、「法令が普段から行われていて人民に教令すれば、人民は服従する。法令が普段から行われていなければ、人民に教令しても、人民は服従しない」と諭しました。
次に、部下に間違いを指摘したり、罰を与えたりするときの注意事項です。それが上手く行くときの条件を一言で言えば、「上司の人間そのものが信頼されていること」に尽きます。人間自体が信じられているなら注意がしっかりと行き届くでしょうが、不信に思われ、軽蔑されているような場合は、「あんたにだけは言われたくない」と反発を受けることにもなりかねません。