勝つためには、地の利を得なければなりません。戦場の地形をよく観察する必要があり、その第一が「通」です。通の地形、即ち「通形」は、敵味方どちらからも向かい易い状態にある地形のことです。四方に通じており、「こちらから行けるし、相手からも来られる」という進み易い地形です。
これを、仕事や人間関係における状況に置き換えてみます。双方どちらからも進み易い状況にあるというのですから、こちらがモタモタしていれば、相手は遠慮無く向かって来るという様子でしょう。
取り敢えず放っておいて構わない事柄なら傍観していればいいのですが、後手に回ることで利益が著しく侵害され、元の状況を取り戻すのに大きな負担が掛かるようなときは、こちらから先に要所を確保しなければなりません。要所とは、その確保によって、周囲から全体にかけて抑えられる重要ポイントのことです。
そこで「この通形では、南を向いた高地に先居」せよと、孫子は教えました。日当たりと見晴らしが良く、相手に対して上から下に向かって攻めていける場所を抑えるよう促したのです。
そして「補給路を生かして戦えば有利となる」と。折角確保した重要ポイントも、そのまま放っておいたのでは干上がってしまいます。必ず補給路を整え、要所の価値を衰えさせないよう注意したのです。
第二は「挂(かい)」で、その地形を「挂形(かいけい)」と言います。これは、行くことは出来るが、帰ることが難しいという地形です。帰るときに上り坂が多く、見通しが悪くなるような地形がその例でしょう。
この挂形は、一旦始めたら簡単に止めるわけにはいかず、撤退が難しい状況に置き換えられます。参入は楽だが、脱退は厳しいという様子です。海外進出の際などに、そういう状況が起こり得ます。
「挂」という漢字には、分けてハッキリさせるという意味があります。ですから、よく考え、策をしっかり練ってから参加すべき進路ということになります。
そこで孫子は、「この挂形では、敵に備えがなければ出撃して勝利するが、敵に備えがあれば出撃しても勝てない」と諭しました。挂形にあって相手が既に備えている場合、「退却が難しいので不利」となり、自軍にとって大変厳しい状況であると判断されるわけです。(続く)