士氣が衰えて休みたがっている。混乱していて騒がしい。疲れ果てて腹が減っている。敵がこうした状態であれば、今こそ攻めるべきタイミングとなります。
隊列が整然としており、陣容が堂々としている。この場合は、決して正面から攻撃してはなりません。
孫子は軍争篇のまとめとして、「氣」「心」「力」「変」の4つを述べています。氣は士氣、心は心理、力は活力(体力)、変は応変です。これらのキーワードによって、戦う前に勝つための基本が示されました。
士氣が衰えて休みたがっている。混乱していて騒がしい。疲れ果てて腹が減っている。敵がこうした状態であれば、今こそ攻めるべきタイミングとなります。
隊列が整然としており、陣容が堂々としている。この場合は、決して正面から攻撃してはなりません。
孫子は軍争篇のまとめとして、「氣」「心」「力」「変」の4つを述べています。氣は士氣、心は心理、力は活力(体力)、変は応変です。これらのキーワードによって、戦う前に勝つための基本が示されました。
戦闘は命懸けです。敵味方とも、命を落とすことを覚悟して戦いが行われます。誰だって死にたくありませんから、開戦前は恐怖心に襲われて膝がガクガク震えます。極度の緊張状態から逃げ出したくもなります。しかし、いざ「進め!」の声を聞いたら、味方の勝利を信じて戦うしかありません。
歴史ドラマの戦闘シーンを見ていると、太鼓や鐘などの鳴り物がけたたましく音を出し、旗や幟が勢いよく翻っている場面に出くわします。音を激しく鳴らせば自軍の場所を敵に知らせてしまうし、旗が堂々と立っていれば自軍の位置を相手に分からせてしまいます。それなのに、どうして太鼓や鐘を鳴らし、わざわざ旗を掲げるのでしょうか。
それは、両軍の交争、つまり「軍争」に負けぬためです。敵を上回る統一力と機動力を養い、機先を制して勝利を導くところに鳴り物や旗の意味があります。
サッカーやバスケットボールなどの試合を見ていると、相手の裏をかくフェイントが多用されています。多様どころか、フェイントの仕掛け合いでゲームが進んでいると言うべきかも知れません。
孫子は「戦争というものは、敵の裏をかく心理戦で成り立つ」と述べました。お互いフェイントを仕掛けつつ、敵の出方を読み合うことで戦闘が成り立っているのです。
物事が始まろうとするときを機先(きせん)といい、それを敵味方のどちらが制すかで勝敗の流れが決まります。機先を制するとは、先手を取って主導権を握るということです。『孫子』軍争篇では、軍争則ち「両軍の交争」の心得として、敵の機先を制すことの重要性を説いています。
必要になるのは、やはり情報です。「諸侯の謀計を知らなければ、事前に外交交渉をすることは出来」ません。謀計とは、狙いとしている腹の内のことであり、それを読み取らねば事態は前に進まないのです。
戦国武将の武田信玄は、「風林火山」の旗印で有名です。風林火山は『孫子』軍争篇から採用されたものであり、信玄も孫子の兵法をしっかり学んでいたことが分かります。信玄の軍学は正と奇、静と動の組み合わせと、その運用に眼目がありました。
若き日の徳川家康は、三方原の合戦で信玄に大敗します。信玄は、家康が籠城する浜松城を素通りする素振りを見せて徴発し、まんまとおびき出して打ち破りました。孫子の教える「兵は詭道なり」の手法で見事に家康を欺き、心理戦に勝利したのです。
集団で活動する場合、全体が一個の生命体のようにまとまる必要があります。戦闘なら尚更で、全軍が単なる個人の寄せ集めというのでは全然ダメです。しっかりした活動体にならないと、個々の兵士は優れているのに、全体的に見たら少しも勝っていないという事態に陥ります。
特に、休息と補給の重要性が分かっていない組織は最悪です。スポーツ競技で考えれば、延長戦があったとしても時間制限があり、試合が終われば両軍とも引き上げて、後は宿舎に戻って休息と栄養補給に専念出来ます。それによって、また次戦に臨めます。
いよいよ戦場で両軍が交わるとき、お互い相手の機先を制し、少しでも有利な地を得ようとします。それを「交争」といい、交争が上手くいけば有利な地を得られますが、下手な場合は「危険」な地しか得られません。
もしも将軍が交争を焦り、戦果を上げようとして力み、勢いを起こすために全軍を一気に投入すれば、どうしても大部隊の移動となります。大部隊が動く場合、まさに物資輸送部隊が重荷となって動きを鈍らせ、その後れが全軍の後れとなってしまいます。それならば、装備を捨てて身軽になって進軍すればいいかというと、今度は「動きの遅い物資輸送部隊」が取り残されてしまい、武器や食糧の補給が追い付かなくなります。
戦争というものは、鎧(よろい)を着込んで武器を手にした、兵士たちだけで行われるものではありません。軍隊には、必ず物資や武器、食糧などを運ぶ部隊がいます。それを輜重隊(しちょうたい)や兵站部(へいたんぶ)と言い、後方にあって輸送・補給などの重要な任務を司り、前線部隊を支援するための生命線を作っています。
いかにして先手を取るか。機先を制するための争いを「軍争」と言い、その心得を教えているのが「軍争篇」です。
《孫子・軍争篇その一》
「孫子は語った。およそ用兵の手順は、将軍が命令を君主から受け、軍を統合して兵を集め、両軍が相対して布陣するのだが、そこから両軍が交争することほど難しいものは無い。
両軍が交争することの難しさは、迂回を直行と為し、患難を有利と為すところにある。そこで、その道を迂回しながら、相手を利益で誘い、人より後れて出発しながら、人より先に着くのだ。これが「迂直(うちょく)の計」を知る者(の方法)である。」