本性(性)が発動して「意」になり、「意」が具体化して「情」が現れます。そして、これら性と意と情が合わさって「人の心」になるということを述べました。この説明で頭の中がスッキリ整理された人もいるでしょうが、何だか理屈っぽくて分かり難いと感じた人も多いことでしょう。
連載
その64 現代人には「意」と「情」が足りない
公と私、日常と非日常、刀と自分、生と死、これらを結ぶのが武士道だと言われたときに、読者の皆さんは一体どう感じるでしょうか。「なるほど、そうあるべきだ」と腑に落ちる人、「現代人の常識からすると理解し難い」と首をかしげる人、「そういう生き方がしたいものの、自分はそこまでは出来ない」と思う人など、いろいろな反応があって当然です。
その63 4つの事を繋いでいたサムライの生き方
◆武士道と覚悟の人生◆
これまで綜學の知・情・意3本柱のうち、「知の文明法則史学」と「情の大和言葉」について解説しました。今度は「意の東洋思想」に移ります。東洋思想には、中国思想や仏教思想、日本思想などがありますが、ここでは武士道をもとにした日本思想を述べてまいります。
その62 大和言葉こそ、日本思想を解くカギ
そもそも言葉は思想に他なりません。ある見方や感じ方、考え方や行い方があり、それを表現するために言葉が形成されます。固有の言葉は、それを話す民族・国民にとって大切な思想そのものと言えます。即ち、ある言葉が存在するということは、その言葉によって伝えたい思想があるということです。
その61 日本語は、言葉そのものが神様なり!
まさに超古代の日本人にとって、一音一音が「感性の表現」でした。素直な驚きや感動の表現でもありました。
例えば、か音は、陰・風・霞む・空(から)など、奥深くてはっきりしないものを表します。し音は、滴(したた)る・雫(しづく)・潮(しほ)・清水・シーシーなど、水(みづ)とその流れを表します。す音は、透く・進む・鋭いなど、先鋭や突出した状態を表します。ひ音は、日・火・光るなど、エネルギーとそれが秀でる(日出でる)様子を表します。
その60 日本語で育つと“日本人”になる
8月も半ばを過ぎると、夜は秋の虫たちが鳴き出します。その虫の音(ね)を聴いて、理由は分からないものの、しんみりと感傷にふけるのが日本人の心情です。
この感受性は人類共通のものかと思っていたら、さにあらず。どうやら日本人特有の感性らしいのです。虫の音を雑音として聴いてしまう外国人とは随分違うとのこと。
その59 日本語の成り立ちの古さの証明
以上の通り、一音一音がキチンと発声されるということと、母音が明瞭であるということの、2つの特徴を強く残しているのが日本語です。
言語というものは、いきなり複雑な構造を持つということは考え難く、まず一音一音の発声から始まります。しかし、一音ずつでは表現が限定されます。そこで音を組み合わせて単語をつくり、形容詞や動詞が出来て文法が形成され、言語として組み立てられてまいります。
その58 いわゆる「50音表」は、一音一音にイメージがあることを示している
母音の「あ」は開く(開明)、「い」は命(積極)、「う」は閉じる(閉塞)、「え」は枝分かれ(伸長)、「お」は大きい(偉大)という意味があるということを先に述べました。母音は子音の母体ですから、これらの意味は、各段の子音にも影響を与えます。ア段・イ段・ウ段・エ段・オ段、それぞれの段に共通した意味が現れるのです。それは次の通りです。
その57 カ行音は溜めた息を強く出す。その意味は硬くて強い!
この5母音に、何らかの障害を加えると子音になります。ここから少々専門的な解説になりますので、発声の仕組みに興味が無い場合は、どうぞ読み飛ばして下さい。
カ行~ワ行の発声の仕組みは、次の通りです。
口腔の奥の部位(後舌面と軟口蓋の間)を絞り、溜めた息を強く出すとカ行音(軟口蓋音+破裂音)。上の前歯と舌先で調音し、摩擦させるとサ行音(歯音+摩擦音)。上の歯茎に舌先を当て、舌を離しながら溜めた息を強く出すとタ行音(歯茎音+破裂音、※「ち」と「つ」は摩擦も加わるので歯茎音+破擦音)。
その56 あ音は開く、い音は命、う音は閉じる、え音は伸長、お音は偉大
48音の一音一音が、キチンと発音されているのが日本語であり、その一つ一つに発声上の特徴と、それに基づく意味があると述べました。分かり易く言えば、発声の仕方がそのまま意味を生むという「自然発声音」で成り立っているのが日本語なのです。
日本語の5母音(あいうえお)を例に、自然発声音を説明しましょう。母音は、声帯が震えて出た声(有声音)が、口の中で何らかの障害や摩擦を受けないで発声された音のことです。子音に対して母体の役割を果たしているので母音と呼ばれています。