其の百三十九 病を治す作用や、悩みから救われる働きは、自己の内に備わっている…

そもそも「自然」には内在する知恵があります。それを松下幸之助塾長(松下政経塾)は「自然知」と呼びました。自然知に基づいて進めていくのが、師が提唱されていた「新国土創成論」です。それは単なる開発とは違う、天地人一体の大構想でした。

「内在する力」というものは、大自然ばかりでなく、私たち一人一人にも備わっております。病を治す作用や悩みから救われる働きが、ちゃんと自己の内に備わっているのです。その力は、自然治癒力や自然良能、免疫力などと呼ばれています。この内在する力を自覚し、病や悩みをきっかけとして「生命の脱皮」を図るよう沖導師は促しました。

「人間は表の変化にとらわれている限り、動揺しなくてはならない。病んでいる姿の奥に、これを治している生命の働きが存在する。悩みの奥に、生命の脱皮、要求がある。心を静めて、この自己に内在する、尊い自己を自覚すべきではないだろうか。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房p.113.)

人間は表面に現れる現象に、どうしても囚われ、そして動揺します。表面に現れた「病んでいる姿の奥に」、異常を治そうとする生命の働きがあります。自然治癒力を備えた「尊い自己」が存在するのに、いつの間にかそれを見忘れているのです。

「病む」は「止む」と同じで、氣や血の循環が止(や)んでいる(滞っている)状態のことです。氣血が滞れば、同時に心も沈んできて、心身ともに病んでしまいます。その悪循環から抜け出すためには、運動・言葉(言霊)・呼吸などによって氣血の循環を良くし、氣持ちを喜楽の方向へ引き上げていかねばなりません。

運動・言葉・呼吸などをきっかけに、自然良能の存在を感じてみましょう。そうして、自己を救う英知はこのまま内にあり、既に必要な力は与えられているという自覚が膨らんでくれば、きっと人生が好転しはじめます。表面に生ずる変化に、いちいち動揺しない自分が次第に現れ出てくることでしょう。(続く)