お馴染みのラジオ体操などで行う「深呼吸」は、息を吸ったり吐いたりします。「呼吸」という熟語も、呼気と吸気、すなわち吐く息と吸う息で成り立っています。
だから呼吸は、吸う息と吐く息の二つしかないと思われがちです。息を吸ったら吐くし、吐いたら吸うし、それ以外に何があるの…と。
ところが、ヨガでは第三の呼吸の重要性を説いています。それが「止息(しそく)」です。
「われわれは注意を集中して、うちの力を引き出そうとするときに息を止める。息を止めて堪えることをヨガではクムバク(止気法。留息法)という。
例えば「何だろうな」と注意を集中した時、「痛い」と我慢する時や、物を持ち上げようと気張った時には自然に息を止めている。これがクムバクである。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房p.102.)
確かに、時計を見るときや、縫い針の穴に糸を通そうとするときの止息、痛みを堪(こら)えているときの「うなり声」、重たい物を持ち上げるときの「んっ!」という声など、いずれも止める息が基本となっております。そうして意識を集中したり、内在する力を引き出そうとしたりしているのです。
では、なぜクムバクによって集中力が高まるのでしょうか。沖導師は、次のように説きます。
「クムバクした時には全身の力が下腹と腰に集中して、心身は中心(丹田)に統一されている。そしてこの時には自然に肩の力が抜けて下り、肛門はしまっている。
クムバクは心と体を一つに結ぶスウィッチで、うちに力を込めるとき、感激したとき、決意した時は、われわれは自然にクムバクしている。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房p.103.)
クムバクによって、心身が丹田に統一されて肛門が締まり、中心力が起こって余分な肩の力が抜ける。クムバク、つまり第三の呼吸である止息を上手く行うと、心と体が一つに結ばれるのです。つまり、止息によって心が体を主導出来るようになると。
また、「おおっ!」と感激したときや、「よしっ!」決意したときの呼吸にも、自然にクムバクしているとのことです。(続く)