ある日のこと、何かのお手伝いで、沖導師の車に同乗したことがありました。21歳頃であった私は、沖導師の近くに寄るだけで緊張しまくっていたのを記憶しています。
それから45年が経ち、今度はその私に対して、まだなれていない若い弟子たちが緊張しています。講座開催地の最寄りの駅まで、アテンド役で私を迎えに来てくれるときなど、張り詰めた顔付きでいる様子が遠目にも分かり、昔の自分を見ているようで苦笑してしまいます。
車中で沖導師は私に語りかけました。「林、おまえも武道をやっているだろう。武道はな、一つだけじゃなくていろいろやれ。どうしてか分かるか?」
「一つだけだと偏るからでしょうか?」
「そうだ。いいか、柔道は引く力、剣道は伸ばす力を鍛える。また、弓道は胸を広げ、空手は体を引き締める。武道を綜合的にやれば、偏らない鍛錬になるのだ。」
この偏らないようバランスを取ることの重要性は、スポーツも同じであると沖導師は言われました。意外なことに体を鍛えているはずのスポーツ選手に怪我や病気が多いが、それは同じ側のみを使い、同じ方向にだけ動かし、同じ動作ばかり繰り返し、同じ部位に過度の負担を掛け続けているからだと。その偏った体の使い方が原因となって、いろいろな箇所に歪みが生じ、それが内臓や器官などにも悪影響を与えてしまうということでしょう。
高校時代に柔道初段、専門学校時代に杖道二段と居合道三段を取得しており、それから沖ヨガ修道場に入門しましたので、その頃既に三種の武道稽古を積んでおりました。その後、四十代で合気道三段、六十代で空手道三段を取得しましたので、結果的に綜合武道を修練してきたことになります。それは、若いときの沖導師の言葉に導かれたからに違いありません。(続く)