其の五十 約束を守るコツは、約束しないところにある?!

はっきり嫌だと言えば、そこで喧嘩(けんか)になる。だから、相手への思い遣りとして遠回しに言う。それが、都に生きる人たちの知恵とのことです。

でも、筆者のような無風流な田舎者は、そういう遠回しな表現に、しばしば戸惑います。そのままストレートに受け止めて構わないのか、それとも言葉の行間を察するようにすべきなのかで迷うのです。

あるいは、京都人は“無言のメッセージ”として、何らかの所作でこちらに知らせようとしてくることもあります。もしもそれに気付けたら合格なのでしょうが、筆者のこれまでの体験上、よく分からない場合のほうが多かった気がします。

そして、人によっては、気付けない相手を鈍感な奴と決め込み、無風流な田舎者はダメという判定が下されるから大変です。それならば、最初にハッキリ言ってくれたほうが、ずっと楽だと思うのですが如何でしょうか。

心が穏やかで人情のある都の人を、しっかりと弁護された堯蓮上人には申し訳ないのですが、筆者は講義で毎月上洛しているとはいえ、都に住んでいるほどではないため、いまだに都の人との距離感に迷ってしまう次第です。

そういう筆者ですが、実は遠祖は京都の公家でした。やがて関東(栃木県佐野市)に移り、代々宮司(現在22代目)を務めているのが大本家です。浜松に住むのは、祖父の代からです。

いくら遠祖が都の公家でも、関東に移住してから長い時が経ち、祖父からは遠州の地で暮らしています。もうすっかり東国の人間ですから、なかなか都の人の感性に馴染めないのも仕方なさそうです。

さて、東国の人は人から何か頼まれますと、「はじめからダメと言って終わり」にするとのことでした。思うに、これぞ約束を守る一番のコツでしょう。約束を守るコツは、約束しないところにあるというわけです。

何か頼まれたとき、出来ない事は断り、出来る事は受ける。そこにも、大切な人生の心得があると思います。(続く)