其の四十 今動け!と感覚したら、後れを取ることなく反応せよ

賭け事で勝ったり負けたりするうちに、ある段階で負けが重なり、手持ちの資金が底を突いてきます。まだいくらかあるものの、間もなく空っぽという状態です。

そうなったとき、残りのお金を全てはたいて一発逆転を狙いたくなるのが賭け事好きの心理です。次こそ自分に有利な目が出て、必ず勝てると期待するわけです。

そういうとき、無理してでも一発逆転を狙っていいのかどうかです。兼好法師は「ある者」の教えとして、「もうそこで打つのは止めよ」と述べました。

止めるべき理由は、運氣や勢いが自分に掛かっていないというところにあります。負け続けていながら、突然大勝利の幸運が訪れるということは、まずあり得ません。焦る気持ちを抑え、しばらく場を離れて落ち着きを取り戻すべきであると。

一度止めることで気分を切り替え、運気と勢いが自分に戻ってくるのを待てば、やがて形勢が変わって「続けて勝てる時に至る」というわけです。その切り替わる時機を知っている者が「上手な博打打ち」なのです。

あらゆる存在が活動し、活動すれば変化が起き、変化が起これば循環が生じます。循環は上昇・下降の波を描き、勝負師はその波をよく掴んでいます。流れを読んだ上でタイミングを計り、打つべき手を打っているのです。

それは直観による判断が基本となりますが、単なる当てずっぽうの勘を頼りにしているわけではありません。客観的な状況把握(インテリジェンス)のもと、過去の経験(歴史)も生かしながら、心に素直に響き、魂に深く届いて来るものを感じ取っています。そして、「今動け!」と感覚したら、後れを取ることなく反応することが大切です。

ところで、二人で金品を賭けているだけの場合は別にして、何事であれ賭け事というものは、必ず元締め(主催者)が得し、客(参加者)が損をするように出来ています。そうでなければ、そもそも“事業”として成立しません。だから、負けることが当たり前なのです。

でも、客の心理は違います。皆は損をしても、この自分は勝てるに違いない、いやきっと勝つのだと思い込んでいます。その心理につけ込まれて大損をすることになるのだから、本当に賭け事には要注意ですね。(続く)