戦争には、甚大な被害をもたらす火攻めが付きものです。大東亜戦争の際、アメリカ軍による空襲によって50万人以上の一般国民が殺害され、その多くが火を原因に亡くなりました(広島・長崎の原爆被害含む。総死者数は諸説有り)。
筆者の住む浜松にも空襲がありました。昭和19年(1944)12月13日から始まった攻撃は、遠州灘沖の軍艦からの艦砲射撃を含めて27回に及び、3千人超の死者が出ました。最大の被害は昭和20年(1945)6月18日未明の浜松大空襲で、約100機のB29爆撃機から6万5千発の焼夷弾が投下され、家屋1万5千戸以上が全焼し市民1717人(警察調べ)が亡くなりました。
空襲を知らせるサイレンが鳴れば防空壕に逃げ込みますが、その防空壕に爆弾が直撃することもありました。そのため、一家全滅という悲惨な事態が筆者父方祖母の実家に起こっています。あるいは、B29が市街地への爆撃を終えた後、余った爆弾を田園地帯の民家に投下(処理)しながら帰っていくという、鬼畜さながらの悪行を為す米兵もおりました。
この悲惨な火攻めについて、孫子は何を語っていたか。兵士よりも民間人のほうに多数の被害者が出るのが現代の戦争ですから、火攻めは市民防衛のためにも知って置かなければならない事柄のはずです。では『孫子』第十二章・火攻篇の解説に進みます。
《孫子・火攻篇その一》
「火攻めに五種類がある。第一に人を焼く。第二に積まれた食糧を焼く。第三に物資の輸送車を焼く。第四に倉庫を焼く。第五に駐屯している部隊を焼く。
火攻めの実行には必要な勝因というものがあり、煙火を起こすには予め必要な道具がある。
火を発するには適した時があり、火を起こすには適した日がある。時とは、天気の乾燥した時期のことである。日とは、月が星座の箕(き)・壁(へき)・翼(よく)・軫(しん)にかかるときだ。これら四宿(四つの星座)が風の起こる日である。」
※原文のキーワード
人を焼く…「火人」、積まれた食糧を焼く…「火積」、物資の輸送車を焼く…「火輜(し)」、倉庫を焼く…「火庫」、駐屯している部隊を焼く…「火隊」、火攻めの実行…「行火」、必要な勝因というものがある…「必有因」、予め必要な道具がある…「必素具」、適した時がある…「有時」、適した日がある…「有日」、天気の乾燥した時期…「天之燥」、月がかかる…「月在」 (続く)