その157 一見派手な火攻めにも、辛抱強さが求められた…

火攻めには、下記の五種類があります。但し、これら五つは火攻めにおける別々の攻撃目標というよりも、そのときの状況下でどこなら攻められるか、どこを焼けば有効なのかを判断するための項目と考えるべきでしょう。

一、      「火人」…戦闘に関わる人員の他、人の乗る戦車の馬などを焼く。
二、      「火積」…貯蔵所に積まれている兵糧を焼いて、敵の食を断つ。
三、      「火輜(し)」…物資を運搬中の輸送車を焼いて、敵の補給を断つ
四、      「火庫」…資材や財貨を蓄えている倉庫を焼いて、敵に損害を与える。
五、      「火隊」…駐屯している敵の部隊を焼き討ちして蹴散らす。

この「火攻めの実行には必要な勝因」、つまり向いた条件というものがあり、特に重要となるのが天候です。当たり前ですが、雨天は火が消えますから火攻め
に向きません。晴天が続いて空気が乾燥しているときが、火攻めのチャンスとなります。

また、風の強いときも、火の勢いが増すから火攻めに向いております。古代の天文では、28ある星座の中の箕(き)・壁(へき)・翼(よく)・軫(しん)という4つの星座(四宿)に月がかかるときに強い風が吹くとされていました。
諸葛亮孔明などが天に祈って風を起こしたという逸話は、軍師が天文をよく掴んでいたことを示しています。

それから、火攻めで「煙火を起こすには予め必要な道具がある」とのこと。
発火の器具と言っても、孫子の時代にはまだ火薬はありませんから、摩擦熱で火を起こす装置や、松明(たいまつ)、枯れ草など燃える物の用意がそれにあたるでしょう。

こうして火攻めには、予めの準備と、チャンスとなる気候を待つことが重要でした。一見派手な火攻めにも、辛抱強さが求められたわけです。(続く)