その137 敵と味方の位置関係から、動的に地の利を得る!

『孫子』第十一章は「九地篇」といいます。この篇では、敵と味方が置かれている戦場(土地)の状況を九つに分析しつつ、その対応策を論じています。

九地の内、衢地(くち)・囲地・死地の三つは九変篇にも出て来ました。また、地形篇でも土地の形状を六つに分類していました。それらと重なる内容があるものの、本篇では敵味方の位置関係がより重視されており、さらに動的な内容となっています。相手の動きを捉えながら地の利を得ていくよう教えているのが九地篇です。

《孫子・九地篇その一》
「(土地の性格に応じた)戦い方に、散地、軽地、争地、交地、衢地(くち)、重地(ちょうち)、圮地(ひち)、囲地、死地がある。

(これらを説明すれば、)
・諸侯が自国の地で戦うのが散地、
・敵国の地に入ったものの、深入りしていないのが軽地、
・味方が得ても敵が得ても利となるのが争地、
・味方も行けるし、敵も来られるというのが交地、
・諸侯の地が四方に続き、そこに先に至れば天下の衆望を得られるというのが衢地、
・他国の地に深入りし、敵の城や村に囲まれることの多いのが重地、
・山林・険阻な要害・沼沢など、行軍が困難な地が圮地、
・由りつつ入って行くのに狭く、従いつつ帰っていくのに迂回せねばならず、少数の敵によって味方の大軍が撃たれてしまうのが囲地、
・速やかに戦えば生き残り、そうでなければ亡んでしまうのが死地である。

(九地それぞれに注意事項があり、)
・散地では戦ってはならず、
・軽地には留まってはならず、
・争地では(敵に先取されたら)攻めてはならず、
・交地では(部隊間の連絡を)絶ってはならず、
・衢地では外交を重ね合わせ、
・重地では(食糧・物資を)現地調達し、
・圮地では(速やかに)通過し、
・囲地では謀計を用い、
・死地では奮戦あるのみだ。」

※原文のキーワード
戦い方…「用兵之法」、自国の地で戦う…「自戦其地」、敵国の地…「人之地」、深入りしていない…「不深」、味方が得る…「我得」、敵が得る…「彼得」、味方も行ける…「我可以往」、敵も来られる…「彼可以来」、四方に続く…「三属(四属)」、衆望…「衆」、他国の地…「人之地」、敵の城や村に囲まれることの多い…「背城邑多」、沼沢…「沮沢」、行軍が困難な地…「難行之道」、狭い…「隘」、迂回…「迂」、少数の敵…「彼寡」、味方の大軍…「吾之衆」、速やかに戦う…「疾戦」、生き残る…「存」、戦ってはならず…「無戦」、留まってはならず…「無止」、攻めてはならず…「無攻」、絶ってはならず…「無絶」、外交を重ね合わす…「合交」、現地調達…「掠」、通過…「行」、謀計…「謀」、奮戦…「戦」 (続く)