その136 可よりも不可を考えよ!そうすれば失敗を避けられる

孫子・地形篇その四の文全体を、さらに分かり易く訳してみます。

「自軍の兵士の実力で、攻撃が十分可能であると思われるときこそ焦ってはいけない。敵軍の実力を客観的に把握し、その準備が万端である場合、攻撃は不可能であるということを冷静に覚るべきだ。そうでなければ勝利は危うく、五分五分の戦いとなってしまう。

反対に、敵軍の準備が不十分で、今なら攻撃が可能というときも焦ってはいけない。落ち着いて自軍の兵士の実力を観察しなければならず、現状では攻撃が不可能であると認識されたなら、やはり開戦は避けるべきだ。そうでなければ勝利は危うく、五分五分の戦いとなってしまう。

それでは、敵軍が準備不十分で今なら攻撃が可能であり、自軍の兵士の実力で攻撃が十分可能なときなら、そのまま攻めて行って大丈夫だろうか。いや、まだ足りないことがある。それは戦場の地形だ。地形を見て、そこで戦うリスクをしっかり受け止め、戦闘は不可能であるということを判断出来ないようでは、同様に勝利は危うく、五分五分の戦いとなってしまう。

戦上手は、これら敵・味方・地形の三者を熟知している。その結果、軍を動かして迷わないし、兵を挙げて戦闘に入っても行き詰まったりしない。即ち、敵軍と自軍の双方を知れば、勝利に対しての危うさは無くなるのだ。

さらに、タイミング(時期的条件)を外さないよう天の時を掴み、場(地理的条件)を味方に付けられるよう地の利を生かせば、自ずと勝利は確実になるだろう。」

敵軍の優れた実力を知れば攻撃は不可、自軍の劣った実力を知れば攻撃は不可、地の利のリスクを知れば攻撃は不可、というように「不可を知れ」というところに地形篇その四の核心があります。「可を知る」のではなく、敢えて「不可を知れ」なのです。

将軍たち指揮官は、どうしても勝利の可能性ばかり考えてしまいますが、それだと気が逸(はや)って冷静さを失い、大きな落とし穴に填(はま)る可能性があります。

出来る事よりも出来ない事を考えよというわけですから、何だか暗い思考のように思われがちですが、決してそうではありません。可よりも不可を考えることによって、焦って失敗したり、足元を掬(すく)われたりする愚を避けられるのです。

ビジネスや人生も同じです。状況を確認するときは不可をベースに考察し、いざ打って出るときは勢い良く踏み込むというメリハリが必要でしょう。(続く)