沢山の人があっけなく死に、都市が一気に破壊されてしまうのが戦争です。まさに戦争ほど悲惨なものは無く、人類の愚かさを示す悪習慣とも言えます。
だからこそ孫子は、戦わないで勝つ方法を唱えました。戦闘は仕方無くするものであると。
しかし、どうしても戦わなくてはならないときは、やはり勝たねばなりません。戦闘となれば、前線の兵士らが腹を括り、豪傑となって奮戦するしかありません。指揮する将軍の任務は、恐怖に駆られている兵士らに覚悟を据えさせ、もう戦う以外に進む道は無いという状況に導くところにあります。
その方法として、まず「軽地」から「重地(ちょうち)」に進みます。軽地は、まだ敵国に浅く入っただけの状態を意味します。敵地に入ったばかりの緊張感から兵士の心理は浮き立ち、そこでは直ちに自国に戻りたいという心細い気持ちが起きています。そういう心がドキドキと軽く浮き立つ様子から、軽地と呼ばれたのです。
そこで、軽地には駐屯を避けて長く留まらず、さらに深入りして「重地」に向かいます。そうして「深く攻め入るほど味方は戦いに専念」することになり、「敵は抵抗出来なく」なるとのこと。
重地での心得ですが、食糧は「敵の沃野(よくや)から調達」し、「休養に努めて(兵士を)疲労させず、氣を合わせて力を積ませ」ます。さらに「軍を動かす際は謀計をめぐらし、相手に測られないように」します。こちらの目的を察知されないよう、敵を翻弄させながら動くことで、敵地での主導権を保つのです。
「そうして、兵を(戦う以外に)行く所の無い状況に投入すれば、まさに死んでも逃げなくなるから」「死を覚悟」し、「士卒らは死力を尽くすのみ」となります。「兵士らは非常に(危険な状況に)陥るほど恐れなくなり、行き場が無くなるほど(心が)固まり、深く入るほど拘守(固く守ること)し、やむを得なくなるほど闘うのみとなる」わけです。
随分冷徹な人心掌握の方法と思われますが、覚悟して奮戦しなければ負けてしまうのが戦争なのですから、深く踏み込む以外に道はありませんでした。(続く)