その144 いかにして腹を括らせ、覚悟を据えさせるか…

戦争は常に死と隣り合わせだから、兵隊は誰もが開戦を恐がります。将軍は、そういう兵士らに腹を括らせねばなりません。もう戦う以外に無いと覚悟を据えさせたときに、兵士たちは豪傑ともなって奮戦するようになるのです。

《孫子・九地篇その三》
「敵国に進入するときの方法だが、深く攻め入るほど味方は戦いに専念し、敵は抵抗出来なくなる。(食糧は)敵の沃野(よくや)から調達すれば全軍の食は足りる。休養に努めて(兵士を)疲労させず、氣を合わせて力を積ませよ。軍を動かす際は謀計をめぐらし、相手に測られないようにせよ。

そうして、兵を(戦う以外に)行く所の無い状況に投入すれば、まさに死んでも逃げなくなるから、どうして死を覚悟しないことがあろうか。士卒らは死力を尽くすのみだ。兵士らは非常に(危険な状況に)陥るほど恐れなくなり、行き場が無くなるほど(心が)固まり、深く入るほど拘守し、やむを得なくなるほど闘うのみとなる。

そうなれば、兵士らは習わなくても用心し、求めなくても(力闘姿勢を)獲得し、(軍法で)縛らなくても親和し、命じなくても信頼出来るようになる。また、吉凶の流言(りゅうげん)を禁じ、疑惑を抱かせないよう注意すれば、死に至るまで他に行く所は無くなる。

我が兵士たちとて、余った財物が無いのは、財貨を嫌っているのとは違う。余った命が無いのは、長寿を嫌っているのとも違う。

出陣の命令が発せられる日、士卒の坐している者は涙が襟を潤し、横臥している者は涙が頬に伝わる。そういう彼らを(戦う以外に)行く所が無い状況に投入すれば、専諸(せんしょ)や曹劌(そうけい)の(ような豪傑となって)勇気を奮うだろう。」

※原文のキーワード
敵国に進入するときの方法…「客之道」、戦いに専念…「専」、敵は抵抗出来なくなる…「主人不克」、沃野…「饒野」、調達…「掠」、全軍…「三軍」、休養に努める…「謹養」、疲労させず…「勿労」、氣を合わせて力を積ませよ…「併氣積力」、軍を動かす際は謀計をめぐらす…「運兵計謀」、相手に測られないようにせよ…「為不可測」、兵を(戦う以外に)行く所の無い状況に投入…「投之無所往」、まさに死んでも逃げなくなる…「死且不北」、どうして死を覚悟しないことがあろうか…「死焉不得」、士卒らは死力を尽くすのみ…「士人尽力」、非常に(危険な状況に)陥るほど恐れない…「甚陥則不懼」、行き場が無くなるほど(心が)固まる…「無所往則固」、深く入るほど拘守する…「深入則拘」、やむを得なくなるほど闘うのみ…「不得已則闘」、習わなくても用心する…「不修而戒」、求めなくても(力闘姿勢を)獲得する…「不求而得」、(軍法で)縛らなくても親和する…「不約而親」、命じなくても信頼出来るようになる…「不令而信」、吉凶の流言(りゅうげん)を禁じる…「禁祥」、疑惑を抱かせないよう注意…「去疑」、死に至るまで他に行く所は無くなる…「至死無所之」、余った財物が無い…「無余財」、財貨を嫌っているのとは違う…「非悪貨也」、余った命が無い…「無余命」、長寿を嫌っているのとも違う…「非悪寿也」、出陣の命令が発せられる日…「令発之日」、涙が襟を潤す…「涕霑襟」、横臥…「偃臥」、涙が頬に伝わる…「涕交頤」、専諸(せんしょ)や曹?(そうけい)…「諸?」、勇気を奮う…「勇」 (続く)