こちらから相手がよく見えるが、相手からはこちらが見えない。孫子は、その様子を「敵を形(けい)せしめ、こちらは形が無い」と表現しました。敵は「形」があるが、こちらには「形」が無いと。
形はハッキリした態勢、つまり固定化された状況のことです。敵軍は形に填(はま)っているので動きがよく見えますが、自軍には形が無いので固定化されておらず掴み所がありません。
こちらから相手がよく見えるが、相手からはこちらが見えない。孫子は、その様子を「敵を形(けい)せしめ、こちらは形が無い」と表現しました。敵は「形」があるが、こちらには「形」が無いと。
形はハッキリした態勢、つまり固定化された状況のことです。敵軍は形に填(はま)っているので動きがよく見えますが、自軍には形が無いので固定化されておらず掴み所がありません。
本篇は「虚実篇」といい、「虚」は空虚、「実」は充実を意味します。戦いに勝つためには、敵を空虚にし、味方を充実させる必要があります。充実した軍が空虚な軍を攻めれば、勝利は間違い無しとなるでしょう。
では、どうしたら敵が虚、味方が実という状況をつくれるのでしょうか。平凡な答は、味方の兵力をどんどん増やせばいいというものですが、限られた国庫の中で軍事力に使える費用には、自ずと限りがあります。それに、敵だって真剣になって戦いに備えていますから、虚実の状態を明確につくることは簡単ではありません。
漢方医学では、必ず患者の「虚実(きょじつ)」を診ます。体力が弱り氣が不足している状態が「虚」、体力はあるものの邪氣が溜まっている状態が「実」です。
体力低下による呼吸器疾患や過労衰弱による胃腸病などは前者、体力旺盛だが肥満気味で高血圧・糖尿病などの病状が表れている場合は後者となります。
「エイッ!」と打ち込んだ拳を、サッと引きながら後ろへ下がる。一瞬の隙を捉えて勢い良く打ち込んだら、素早く下がりながら引き手を取るというのが、(全日本空手道連盟など伝統系)空手道が教える突きの要領です。その際、もう一方の腕は防御のために前にかざします。
突きやパンチというものは、ドスン、ドスンという、いかにも重そうな打ち方では、相手をノックアウトする威力は起こりません。そうではなく、余分な力は抜いたまま、素早くシュッと打つときに一撃で相手を倒す力が生まれるのです。
さて、兵法は固定された方法でも、枠にはまった技術でもありません。あらゆる戦いは、その場・その時に、そこにいる人たちによって起こされる一回限りの活動です。毎回が初回なのですから、そもそも固定させたり枠にはめたり出来るものではないのです。
但し、似ている状況やパターンというものはあります。二度と同じ戦争は発生しないものの、近似した情勢は起こり得るわけで、そこから勝敗の条件を抽出し、一定の対応法(戦法)を導き出して体系化したのが兵法なのです。
目的の無い戦いなどというものは基本的に有り得ません。戦いには必ず敵方(てきがた)の意図や狙いがあるのですから、それを相手の立場に立って考察してみましょう。そうして「敵が必ずやって来る」であろうところを事前に予測し、十二分な準備を整えてから迎え撃てば、罠(わな)にはまった獲物のように敵を捕らえることが可能となります。
いつも敵を過大評価し、恐れおののくばかりではいけません。脳天気に高(たか)を括って油断し、敵を侮ってばかりいてもダメです。
必要なのは正しい情報と、相手の出方を読み取る冷静な判断力です。敵の狙いはどこにあり、一体何が欲しいのか。その意図は、失いたくない面子(めんつ)とは、といった事柄について全体を観ながら考察するのです。
孫子は「先に戦地に到着して敵を待てば楽だが、後から戦地に到着して戦いに向かうと苦労する」と述べました。何事であれ、先に到着すれば有利なポジションを取れます。戦闘であれば尚更で、先着して敵よりも高い位置に布陣すれば、下(くだ)りながら勢いを付けて攻撃することが出来るのだから断然有利となります。
現場には先に到着せよということですが、式典や会議、講演会や勉強会など何かのイベントに参加するときも、開始ぎりぎりに会場入りするのではなく、少し早めに到着することを習慣にしたいものです。早く着けば気持ちに余裕が生まれますし、主催者や他に参加者と挨拶を交わす時間が取れます。また、その場の雰囲気に早く馴染み、会場の空氣を主導することも出来ますから、会合参加が一層自分にとって充実した一時(ひととき)となります。
先にも述べた通り、先手準備は勝利の基本です。何事も早めに準備することを習慣にすれば、直前になって慌てることが少なくなり、落ち着いて事に当たることが出来るようになります。
反対に、後手に回ることが増えるほど、足元しか見られなくなります。大局を見失って部分に囚われ、抜けやミスが多くなっていきます。そこへまた新しい問題が舞い込んでくるのですから、ストレス満載となり、酷(ひど)ければ毎日がパニック状態となるでしょう。