臍(へそ)下の下腹部に「丹田(たんでん)」という、心身統一の根本となる部位があります。丹田は解剖学的に確認されるものではなく、生きている人体に存在し、中心統一の働きを為しております。場所は、臍の下約5~9cm(※古来、臍下三寸にあるという)のあたりの奥になります。下記の文中の「下腹」は、丹田を指しているものと考えられます。
「あらゆる修行法も、また諸道諸芸も、無心の間に、下腹(生体の中心)に力の集約されることを要点としている。下腹に力が集約された時、自然に呼吸は整ってくる。自然の呼吸とは、吐く息の時に、下腹に力がはいり(横隔膜が上り)力を抜いた時に息が自然にはいる状態である。このようにして腹力が高まり、息が整ってくると、自律神経の働きが整い、その中枢である所の間脳もまた整ってくるのである。かくして、いかなる場合にもたちどころにバランスを回復できるところの生命の働きの持主になるのである。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房p.117.)
修行法や諸道諸芸は、稽古や修練が進むほど、下腹にある「生体の中心」、つまり丹田に力が集約され、無駄な力が抜け、動作が美しくなります。そして、「自然に呼吸は整って」きます。
息を吐くときに丹田に力が入って横隔膜が上がり、息を吸うときに横隔膜が下がって「息が自然に」入ってくるのです。横隔膜というのは、胸部と腹部の間にある板状の筋肉のことで、下がる(収縮する)と肺が拡張して息を吸い、上がる(弛緩する)と肺が収縮して息を吐くことになります。この横隔膜の働きによって「腹力が高まり、息が整って」まいります。
そうなれば、「自律神経の働きが整い、その中枢である所の間脳もまた整」うと。こうして、「いかなる場合にもたちどころにバランスを回復できるところの生命の働きの持主になる」というわけです。
息を吐くときに丹田に力が入って、下腹を膨らませることになれば、その呼吸法を「密息(みっそく)」と言います。密息は、息を吐くときにお腹をへこませるのではなく、膨らませる呼吸法です。これは、痛みを堪(こら)えるときの呼吸に通じ、自然治癒力を発揮させる呼吸法となります。(続く)