其の百二 考え方によって快不快の感じ方が生じ、感じ方が幸福を導く…

目に見える形の背後に、目に見えない働きや作用が、定め(律)として存在します。心身は一如であり、心と体も、その目に見えない働きや作用の現れです。そのことを、沖正弘導師は次のように説きます。

「形ある物は形なき力の現われであり、物の背後にはこれを支配している律がある。心も肉体もこの力の現われである。宇宙にはプラスとマイナスの力が拮抗して、物象を作り出す働きを行っている。この二力が人間の生体の中で生命現象を作り出しているのである。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房89頁)

そして、目に見えない働きや作用は、プラスとマイナスなど陽と陰の力となって、それら二力がバランスを取りながら循環調和しつつ、一切の物象を作り出しています。人間をはじめとする生体においても、陽陰の二力によって生命現象が維持されております。

では、どうやってその宇宙に働く陽陰の二力を人間が生かせるかというと、それは「思考のいかん」にあるのだそうです。

「人間の思考のいかんによって宇宙力との結び付きに差を生じ、生体の働きも向上かまたは廃退への道をたどり、生きがいのある成功者ともなれば、また没落の人生にあえがなければならないことにもなるのである。人生の幸福か不幸かはすべてその人の持つ受取り方に左右されるのである。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房89頁)

生命体としての人間の働きが、向上するか廃退するか。生きがいのある成功者となるか、それとも没落の人生となるか。幸福となるか不幸となるかは、基本的にその人その人の「受取り方」、すなわち考え方いかん(如何)にあるというのです。

人間は「考える動物」であり、考え方によって快不快の感じ方が生じ、感じ方が幸福を導きます。考え方によって感じ方が定まり、一つの信念や価値観が確立するならば、たとえ命を差し出す事であっても、そこの最高の満足感を得ることが可能となるでしょう。

成功しても失敗しても死ぬことが分かっていた赤穂義士の討ち入りや、漢(おとこ)と見込まれために刺客(しかく、殺し屋)となって果てる人生など、死を最高の満足と受けとめる生き様が現実にあるわけです。(続く)