鍛錬や稽古を重ね、上手くなればなるほど余分な力が抜けていく。そうして、手ばかりでなく丹田以外の力が抜けていくところに、諸道諸芸のコツがあります。
「舞踊の上手か下手かは例えば、その人が扇子を持っている場合に、その扇子を風がちょっとでも吹いたら、落しそうなぐらいに、軽くもっていたらその人は上手なのである。
剣道でも下手な人程かたく竹刀を握っている。柔道でも上段者の手足の力は抜けている。角力も同じで、力のはいっているのは腰だけである。自分の腰を捻って、相手の力を利用して相手を倒している。腰のくずれた方が負けてしまう。
テニス、ピンポンをする場合でも、球を打つ場合は腰を少し下げて力を入れる。野球の場合も腰の捻りで球を打ったり、投げたりするのである。
能の場合でも、おどりの場合でも腰腹を中心にして体全体でやっているわけであって、この中心に力を統一して行う呼吸法が諸道の呼吸法なのである。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房85~86頁)
舞踊なら扇子を持つ手の力が、剣道なら竹刀を持つ手の力が抜けており、柔道や角力なら腰以外の力が抜けているとのことです。
また、テニスや卓球では、球を打ち返す際に腰を少し下げることで力を込め、野球では、腰の捻(ひね)りで球を打ったり投げたりするとのと。「腰の捻り」というのは、単に腰を回すことではなく、腰のキレ、つまり溜(た)めておいた腰を切ることであろうと思います。
能や舞踊では、腹腰を中心に体全体を統一させて動いており、その中心力を起こす呼吸が、諸道諸芸の呼吸法となっているというのが沖導師の教えです。(続く)