其の五十二 学んだらやってみる、知ったら生かしてみる…

知(ち)と行(こう)の合一、すなわち知ることと行うことは一つであるという「知行合一」の思想(陽明学)を唱えたのは、中国明代の思想家・王陽明です。
知ったからには行う、行ってこそ知は完成するという行動哲学であり、我が国の志士たちにも大きな影響を与えました。沖導師は、そこにヨガの基本姿勢があると教えています。

「この知と行の合一ということがヨガであって、大脳(思考)と手足(筋肉)とが同時に発達して、ついに体全体で把握したものがつまり理外の理であり、物事の奥義であり、極意、神髄、コツなのである。体全体で考え体全体で行うことが奥義に達するただ一つの道なのである。そのためには、ひたすらに学び、ひたすらに行じなければならない。そしてこの場合まず第一に必要なことは無心で行じ学ぶことである。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房64頁)

学んだら、それを実際にやってみる。知ったら、それを生かしてみる。それも一度や二度ではなく、繰り返し何度も行い、毎日修練するうちに「動ける体」がつくられていきます。まさに習慣化による体得です。

それは脳の神経細胞がシナプス結合し、思考と動作が円滑に行われようになった状態のことであり、知(思考)と行(動作)が合一となっています。そこに、体験・経験を積み重ねた者にしか分からず、言葉や文字で表すことの出来ない「理外の理」があるのです。

そして、「そのためには、ひたすらに学び、ひたすらに行じなければな」りません。実践に際しては、格好良くやろう、上手くやろうとせず、力まず無心で取り組むことが心得となります。

そうすれば、何事も実際に体験しながらコツを掴もうとする習慣が身に付きます。また、まだ体験していない事や体験不可能な事に関しても、これまでの似た(近い)経験に置き換えながら、体全体で感じ、体全体で考えようとする積極的な自分に進化しているはずです。

とにかく、全身をくぐらせた言葉を発しないことには、誰も感動してくれません。体験談が説得力を持つ理由も、そこにあります。(続く)