其の十九 少し飢餓状態なほうが健康に良い!

自己化してこそ栄養になるという話の続きです。沖導師は次のように教えます。

「真の栄養力は少し食べて、それを完全に消化吸収することのできる体の働きであって、生体は適応作用によって、常に多食していると多食しなければならなくなり、美食していると美食しなければ間に合わないような身体ができあがってしまうのである。そしてたとえ同じ物であっても、体の働きの整っている場合は栄養となり、乱れている場合は毒になる場合もあるのである。消化し易い物ばかり食している場合は、消化し易い物ばかりを消化する胃腸となってしまう。また身体自身が造り出すようなものを薬物で補給していると身体自身は造り出すことを怠けて、造り出さないようになってしまう。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房52頁)。

少し飢餓状態なほうが健康に良く、食べた物が栄養となります。きちんと消化吸収しなければ身体がもたないから、食べた物をしっかりと自己化していくのです。

勉強も同様で、必要な本や資料が初めから与えられ過ぎていると、“満腹で”有り難みが無くなり、調べようとする意欲も湧き難くなります。幕末の蘭学塾である大阪の適塾には、ヅーフハルマというオランダ語の辞書が一冊しかありませんでした。ヅーフハルマを置いている部屋には、塾生たちが順番待ちで並びます。彼らは、辞書を独り占めできたらどれほど幸せなことかと思っていたのです。

今は、全ての生徒に必要な辞書が与えられますが、そのことに感謝する生徒が果たして何人いるでしょうか。適塾から多くの英才が育ったことからすると、学問にも何らかの“飢餓状態”が必要なのかもしれません。

仕事もそうです。何もしなくても生きていけるという状態よりも、働かなければ食べていけないというくらいのほうが世の中の役に立ち、人生に張りが出て元氣に生きられるものです。(続く)