偏らないでバランスを取るということ。これについて沖導師は、次のように述べています。
「生命とは調和維持の働きであり、現象はその要求の現われであり、生体保持の原理は適応性であることを発見した。この観点から苦の原因が生命の働きの不調和性(アンバランス)と不自然性にあることを発見した。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房45頁)。
生命の働きは、常にバランスを取る方へ向かう。身体に生ずる痛みや熱、倦怠感などの不快な症状は、基本的に調和維持のために生ずる生命の要求である。また生命体は、外界の変化と周囲からの刺激に対して、常に適応するよう反応する。しかし、こうした働きが適切に機能せず、そのまま不調和で不自然な方向へ行ってしまうと、警告としてさらに「苦」が生じてしまう。この教えの意味は、ざっとこういうことでしょう。
沖導師は受講生に、宇宙には「変化、バランス、安定」の働きがあると教えました。大きくは世界、小さくは身の回りに起こる動揺。その変化に対し、世界も個人も、新しい環境に適応しようとして一所懸命活動します。それがバランス維持の働きであり、調和へ向かえば、やがて安定してきます。
変化・活動こそ宇宙の真理であり、それはバランス維持の働きによって安定へ向かうと。そして、そこへ新たな変化が生ずれば、また次のバランス・安定へと進んで行く。そうして、あらゆるものが生成発展し進化向上して行くのです。
大は宇宙から小は原子や量子に至るまで、一切が休むことなく動いています。変化していないかに見える存在も、時間軸を長く取れば、やはり活動しています。
私たちの人生も、人によって内容に差はあるものの変化の連続と言えます。その自分にふり掛かる変化を、成長に活用することを自己肯定というのでしょう。
それには、バランス維持の働きをどう生かすかがカギとなります。起こった変化の、その自然な流れに(無理に)逆らうことなく、如何にしてプラスに転じさせるかです。転んでもタダでは起きないといった開き直りも、バランスを取りつつ次の安定へ向かう心得となるはずです。(続く)