これら手元や身近なところをよく見よという教えは、目標やゴールが定まっていることを前提とした心得です。ボーリングなら全てのピンを倒すことが、貝合わせならひと組でも多くの貝を取ることが、節分の菓子まきなら沢山の菓子を獲得することが、選挙戦なら当選することが、あらかじめ定められている目標です。それぞれゴールが決まっているからこそ、近くをよく見ることで高い成果を上げられるのです。
それは、兼好法師の時代にもあった、碁盤の上に碁石を並べ、弾いて当てる遊びでも同じでした。遊び方は簡単で「碁盤の隅に碁石を置いて弾く」のですが、「向こう側の石を見つめて弾いても当たらない」とのこと。
命中させるには、まずしっかりと目標の碁石を確認し、それから手元の碁石をよく見ます。そして、手元から伸びている「筋目を狙って真っ直ぐ弾けば、置いた碁石に必ず当たるものだ」というのが兼好法師の教えです。
こちらの碁石を指で弾き、向こう側の碁石に当てるだけの単純なゲームなのに、手元を定めることが心得になるという点が興味深いです。小さな碁盤上のことでも、気持ちを反対側に遣ると、どうしても手元がブレてしまうというところに、焦り易い人間心理の特徴が現れ出ています。
兎に角、目標と手元の、遠近両者を繋ぐところに命中の基本があるのです。遠くの目標ばかり見ていたら、夢追いの理想倒れに終わることでしょうし、近くの手元ばかり意識していたら、あれこれ手を出すものの、どこへ向かうのか不明なまま尽き果てることでしょう。
長時間の講演や講義も同様で、3時間なり5時間後のゴール(結論)に向かって、今述べている事柄を大切に話していけば何とか上手くまとまります。(続く)