其の五十九 これはダメ!ただ自分が喋りたいだけのカラオケ会話…

人が集まったときの会話に、無駄話が多いということを兼好法師は指摘しています。人間は言葉を使う動物であり、話が弾むのは悪いことではありませんが、あまりにも無駄話が多いのは如何なものかと。

「ことば」の語源説に「凝止葉」、つまり「凝り止まった思いが外に出たもの」とする解釈があります。人は誰でも、心の中に凝り止まった思いがあり、それを誰かに向かって喋り、どこかで聞いて貰うことで発散したいと願っているものです。

そこで、普段溜まっている鬱憤や凝り止まった不満を、人が集まった場で一気にぶつけてしまうことにもなるのですが、その内容は聞き手にとってどうでもいいことが多いため、結局無駄話が多いという印象になるのでしょう。

そういう場に集まっている人たちは、人の話を聞くことよりも、自分の話を聞いて貰うことのほうに気持ちが偏っています。皆一方的に喋っているのだから、端から見ると変な会話に思えるのも当然でしょう。

その一つが「カラオケ会話」です。これは、互いに「ただ自分が喋りたいだけ」という会話です。カラオケを思い起こしてください。余程上手な人の歌なら聞き惚れますが、通常は他人の歌なんて聞きたくないものです。そのため、自分が歌っているときに他の人たちは次の歌の予約手続をしていますし、他人が歌っているときの自分も次に歌う曲を探しています。

まさに、相手が語っている間は、次に自分が喋る事を探し、自分が話している間は、他人が次に言いたい事を考えているだけという関係です。お互い、相手の話が途切れるタイミングを今か今かと待ち、間を見つけたら、すかさず自分の言いたい事を喋ろうとする。これをカラオケ会話と呼んでいるわけです。(続く)