其の四十五 お祭りの面白さを、一つの流れとして味わいたい…

賀茂祭(かもまつり)は京都を代表する祭で、下鴨神社と上賀茂神社の例祭です。雅な平安装束をまとった人々が練り歩くことで知られ、葵の緑の葉を簾(すだれ)に掛けたり、行列の勅使(行列の最高位)や斎王代(輿に乗った祭りの主役)、共奉者の衣冠などに飾ったりすることから、葵祭(あおいまつり)とも呼ばれます。

起源は大和朝廷時代の欽明天皇の御代に遡りますから、1500年近い歴史があります。勿論のこと、兼好法師の時代にも開催されていました。

賀茂祭の行列は、御所から下鴨神社、さらに上賀茂神社へと向かいます。その道中を多くの見物客が見守ることになり、法師の頃にも桟敷と呼ばれる見物用の席が設けられていました。桟敷は、祭り行列を見るために一段高く設けられた床のことです。

さて兼好法師は、無風流な人たちが祭り見物をするときの、大変下品な様子を見てしまいました。大きな声で騒ぎ、力んではギョロギョロ見るという「大変珍妙」な様子です。お目当ての祭り行列は、ずっと後だから桟敷で待っていても仕方がない。行列が来るまでは、「奥の部屋で酒を飲み、物を食べ、囲碁や双六(すごろく)などで遊んで」いればいいとのこと。

桟敷には見張り役の人がおり、行列が近付いてきたら「行列がお渡りです」と教えてくれます。その知らせを「聞くと、それぞれ肝が潰れるくらいに争い合っては桟敷に走り登っていく」という慌ただしさでした。

桟敷に上がったら上がったで、「落ちそうになるまで簾を前の方に張り出して押し合い」ます。そうして、「一つも見逃すまいと見守っては、「ああだの、こうだの」と事ごとに批評」いたします。

行列が行ってしまえば、もうすっかり感心が失せ、さっさと桟敷から降りてしまい、また次が渡るまで奥の部屋で待つことになります。要するに、お祭りの面白さを一つの流れとして味わうのではなく、単に綺麗な行列という物だけを見ているのです。(続く)