其の十四 原理、コツ、そして経験~熟達した名人への道

何事にも先達が必要であると述べたのが第五十二段でしたが、これと似た意味の内容が第五十一段にも出ています。その道の専門家でなければ、やはり上手くいかないという話です。

京都のある池に川の水を引き入れようとして、近隣の住民たちに命じて水車を造らせてみました。多くの費用を与え、数日を要して出来上がったので掛けてみたところ、少しも回りません。あれこれ手を入れてみるものの結局回らず、水車は空しく立っているだけでした。

そこで、水車の名所である宇治の里人を呼んで製作させることにしました。すると、宇治の“水車名人”らは、易々(やすやす)と組み立ててしまいます。こんなにさっさと造った物で大丈夫かと思いきや、見事に回って水を汲み上げることが出来ました。

何事であれ、その道を知る者は尊いと、兼好法師は感嘆するのでした。

何と言っても、やはり専門家は違います。専門家、即ちプロは、速く巧みに仕事をこなします。そして、相手を満足させた分、対価となる報酬を受けることが出来ます。ところが素人は、玄人に比べて遅くて出来が悪いのが普通です。

その原因は、一体どこにあるのでしょうか。玄人は、どこが違い、何を持っているのかと。水車であれば、第一に玄人は「水流の性質」と「水車の原理」を知っています。

第二は、それをもとにした「技術的なコツ」を掴んでいます。水車製作の基本を身に付けており、その道に練達しているのです。

第三は、コツが身に付くよう、多くの経験を経ています。水車の設置現場は、毎回環境が異なります。でも、豊富な製造実績を持っていれば、これまでの体験を生かしながら勘を働かせ、新しい水車を見事に完成させるための最適解を導くことが出来るのです。

原理を知ってコツを掴む。そのために経験を重ねる。これらによって、熟達した名人への道が開かれるというわけです。(続く)