何だろうとピンと来たら、早速調べてみることが大切です。それが、たとえ他人から見たらどうでもいいことであっても、自分の直感においてピンと来たら、後回しにしないで直ぐ調べよと。
後で時間が出来たときに調べてみようと思っていても、いろいろな雑務に追われるうちに気持ちが薄れ、その事を次第に忘れていきます。結局、ピンと来たそのときの直感が全然生かされないまま終わってしまうのです。
そこで兼好法師は「ますほ(ますお)のすすき、まそほ(まそお)のすすき」などという、まさにどうでもいいと思われそうな例を挙げながら、後れを取らない行動の重要性を説きます。
「まそほ」は「赤キ色」(大言海)であり、「まそほのすすき」は穂が赤みを帯びたすすきのことです。また、「ますほ」は「まそほ」の転にあたります。穂の赤いすすきという何でも無さそうな事であっても、ピンと来た人にはきっと一大事でしょう。そう感じた人にとって、一瞬の遅れ、一日の先延ばしは、全てを失う原因となるのかも知れませんから。
《徒然草:第百八十八段》其の五
「一つの事を必ず成し遂げようと思うなら、他の事が破れても惜しんではならない。人の嘲(あざけ)りも恥じてはならない。万事を代償としなければ、一つの大事が成るはずがない。
人が大勢集まっていた中で、ある者が「ますほ(ますお)のすすき、まそほ(まそお)のすすきなどという事がある。渡辺の聖が、この事を伝え聞いて知っている」と語ったところ、その座におりました登蓮法師がそれを聞き、雨が降っていたので「蓑笠があれば貸してください。そのすすきの事を習いに、渡辺の聖の許(もと)へ尋ねにまいりましょう」と言った。
(それを聞いたある者が)「あまりにもせわしいではないか。雨がやんでから行けばいいのに」と言ったところ、「論外なことを仰いますな。人の命は、この雨がやんで晴れるまでの間をも待ってくれないものです。この私が死に、聖が失せれば、どうして聞くことが出来るでしょうか」と言って走って出て行った。そうして、(すすきについて)習うことが出来たと言い伝えられているが、これは尊くて滅多に無いことだと感じる。
「早ければ則ち成功する」と論語にも書かれている。(登蓮法師が)すすきを何だろう知りたいと思ったのと同じように、一大事の因縁を考えなければならないのである。」
※原文のキーワード
惜しむ…「いたむ」、代償としなければ…「かへずしては」、大勢集まっていた…「あまたありける」、せわしい…「もの騒がし」、論外…「むげ」、早ければ則ち成功する…「敏きときは則ち功あり」、何だろう知りたい…「いぶかしく」(続く)