その九十二 身動きが取れない→しばらく様子見→状況はさらに悪化?!

兼好法師は例え話が上手です。この段では、碁に例えながら選択と決断の重要性を述べています。碁には「眼(め)」があります。眼は自分の碁石で囲んだ場所のことで、こちらの眼を増やし、相手の眼を減らすよう競技します。

石を置きながらせめぎ合う中、少ない眼を犠牲にしながら、多い眼を生かして(残して)いくことになります。それは神経戦でもあり「一手(ひとて)もいい加減にせず、相手に先立って少ない石を捨てて多い石を取る」よう進めます。

その際、損得が明らかな状況なら判断は簡単ですが、有利不利が判別し辛い中で、一つでも多いほうを選ぶのに苦労することになります。「三つの石を捨てて、十の石を取ることは容易だ」が、「十の石を捨てて、十一の石を取ることは困難である」と。既に眼が「十まで出来ていれば(捨てるのが)惜しくなって、多く勝っているわけではないほうの石に換えることは難しい」ということになるのです。

この碁と同様に、どちらを選ぶべきかで悩むことは、人生の中でしばしば起こることでしょう。決断に困ってしまって身動きが取れない場合、大抵はもうしばらく様子を見ようということになります。確かに少し待ってみたら、状況が変化してきて選択が容易になることもありますが、場合によっては、さらに状態が悪化し、益々動けなくなるかも知れません。

そうして「これも捨てず、あれも取ろうと」欲張るうちに、結局「あれも得ず、これも失ってしまう」という最悪の事態に陥ってしまうのです。そうなる要因に、二つとも失うまいとして欲張る場合のほか、臆病でつい日和見してしまう性格のため、どちらにもいい顔をしていることが原因となる場合があります。

そうして、ずるずると全てを失うほうへ向かってしまうのです。やはり、一方に賭けないと道は開かれず、前に進めないというわけです。(続く)