其の八十二 不器用な専門家と、器用な非専門家。なぜ前者が勝るのか…

不器用な専門家、器用な非専門家。これらを比べると、前者のほうが勝っているというのが兼好法師の見解です。その理由は、専門家と非専門家とでは、努力や姿勢に差があるからです。

専門家は、基本動作を繰り返しながら慎重に努力を重ねていきます。常に基本に忠実であろうとし、適当に手を抜いたり、楽をしようとして軽々しくしたりしません。

ところが非専門家は、趣味程度で始めたケースが多く、どうしても真剣みに乏しくなります。持ち前の器用さで巧みにやってはいるものの、人から誉められて注目を浴びるのが目的になっています。要するに格好良くやりたいのですから、這いつくばってでも成長しようという骨太の根性は見られません。

器用な非専門家だって、勿論努力しています。でもそれは、巧くやって目立つためであるから、「もっぱら自由気ままにやってしまう」ことになります。つまり、一般的に非専門家は、気持ちよく演じられたらそれで満足であって、この道に人生を賭けようという真剣さが見られません。

それに対して専門家は、その道で生きているプロとして人生を賭けています。本氣度が違うから、もうこれで満足ということがありません。常にまだ何かが足りないと反省しつつ修練を積んでいき、基本から外れないよう、師匠から受けた注意を反芻しながら教えを守ります。

勿論、師匠の言いなりになれというわけではなく、専門家もちゃんと創意工夫を重ねます。が、それは基本に忠実であることが前提となります。

結局これらが違いとなって、本筋から逸れなかった専門家のほうに軍配が上がることになるという次第です。

こうしたことは「芸能や技術だけで」なく、「日常の動作や心の用い方においても」同様とのこと。「愚かであっても慎重で」あればコツが体得されていくものの、「巧みだが恣(ほしいまま)勝手にやる」という場合は失敗が待っているということになります。(続く)