達人や名人が語る「極意」などと聞くと、きっと一般の素人には及びも付かないような秘訣があり、それは神懸かっているに違いないと思われがちです。ところが、大抵は「毎日の修練を怠るな」、「工夫しつつ継続せよ」といった類の“普通の教え”であることが多いものです。
何事も、体得するには時間が掛かります。高級漆器は、分厚くさっと一回塗っただけで完成というわけにはまいりません。漆を一塗り一塗り、根気よく積み重ねることで本物が作られるのです。
また、事前の丁寧な点検や、用意周到な準備も極意の中に含まれます。徒然草に出ている馬乗りの教えから、事前準備という大切な秘訣を学びましょう。
《徒然草:第百八十四段》
「吉田と申す馬乗りが言ったことだが、「どの馬も手強いものです。人の力では争えないと知らねばなりません。これから乗ることになる馬を、まずよく見て、その強い所と弱い所を知らねばなりません。
次に、轡(くつわ)や鞍(くら)などの馬具に危険なことがありはしないかと見て、心に掛かることがあれば、その馬を走らせてはなりません。この用意を忘れないのを(本物の)馬乗りと言うのです。これは秘蔵の事です。」とのことだ。」
※原文のキーワード
どの馬も…「馬ごとに」、手強い…「こはき」(続く)