多くの人々が無慈悲に殺され、生き残った者も火傷の後遺症で苦しめられ、あらゆる物が焼き尽くされる火攻めほど、悲惨な被害をもたらす攻撃はありません。
そもそも戦争はしてはならないことであり、するとしても仕方無く起こすものです。従って無意味な戦争は、絶対に避けなければなりません。
無意味となる戦争に、君主や将軍が感情に任せて起こしてしまう戦いがあります。感情とは、怒りや憤りのことです。
敵は、まず心理戦で勝とうとします。こちらに恥をかかせ、怒りを煽ります。
そうして味方の指導者らが、目の前の憤激に囚われ、全体が観えなくなり、敵味方の戦力差を知ろうともせず、何を守るべきかが分からなくなったところへ一気に攻めて来るのです。
そうならないよう、指導者には辱めに対するしぶとい忍耐力と、怒りに我を忘れないための冷静な判断力が求められます。もしも反撃するならば、敵が慢心して油断し、天がこちらに味方する時を捉え、いざチャンスと見たら、溜めておいた勢いを鋭く急所に集中させて撃破すべきです!
《孫子・火攻篇その三》
「戦いに勝ち、敵を攻撃して(敵城を)奪取出来たとしても、功績を上げられなければ凶事ともなる。それを名付けて「費留」(軍費が無駄になっている様子)という。
そこで、賢明な君主は費留とならないようよく考え、優良な将軍は費留とならないようよく修める。そこに利が無ければ動かず、獲得する物が無ければ軍を用いず、危機で無ければ戦わないのだ。
君主は怒りで軍を起こしてはならず、将軍は憤りで戦いを始めてはならない。
利に合えば動き、利に合わなければ止めればいい。
怒りは後で喜びに変わるし、憤りは後で悦びに変わるが、亡国となった後で国が存続することは無いし、死者となった後で人が生き返ることも無い。だから賢明な君主は(意味の無い戦争を起こさないよう)慎重にし、優良な将軍は(意味の無い戦闘を起こさないよう)戒める。これが国家を安んじ、軍隊を全うする方法である。」
※原文のキーワード
戦いに勝ち敵を攻撃して(敵城を)奪取…「戦勝攻取」、上げられない…「不修」、利が無ければ動かず…「非利不動」、獲得する物が無ければ軍を用いず…「非得不用」、危機で無ければ戦わない…「非危不戦」、軍を起こす…「興師」、憤り…慍」、戦いを始める…「致戦」、後で喜びに…「復喜」、後で悦びに…「復悦」、後で存続する…「復存」、後で生き返る…「復生」、戒める…「警」、軍隊を全うする方法…「全軍之道」(続く)