その158 火が風上に発生したときは、風下から攻めてはならない…

続いて、火攻めの注意事項が説明されます。

《孫子・火攻篇その二》
「火攻めというものは、必ず五通りの火の変化に従って対応すべきだ。火の手が敵陣内に発生したときは、早く外からも応じよ。火の手が敵陣内に発生したのに兵が静まりかえっているときは、そのまま待機して攻めてはならない。その火勢を見極めつつ、攻めるべきなら攻め、攻めてはならないなら止めればいい。

また、火を外から起こせそうなときは、火の手が敵陣内から上がるのを待たず、時をみて火を掛けよ。火が風上に発生したときは、風下から攻めてはならない。
昼の風は長く吹くが、夜の風は止んでしまう。軍隊は必ず五通りの火の変化があることを知り、それを技術として備えておくべきである。

火を攻撃の補助に使うのは聡明で、水を攻撃の補助に使うのは強力と言える。
だが、水攻めは(補給を)断つことは出来ても、奪取することまでは出来ない。」

※原文のキーワード
従って…「因」、五通りの火の変化…「五火之変」、火の手が敵陣内に発生する…「火発於内」、その火勢を見極める…「極其火力」、攻めるべきなら攻める…「可従而従之」、攻めてはならないなら止める…「不可従而止」、時をみて火を掛けよ…「以時発之」、火が風上に発生する…「火発上風」、風下から攻めてはならない…「無攻下風」、昼の風は長く吹く…「昼風久」、それを技術として備える…「数守之」、火を攻撃の補助に使う…「以火佐攻」、水を攻撃の補助に使う…「以水佐攻」、奪取することまでは出来ない…「不可以奪」

火攻篇その二を、言葉を補いつつ、さらに分かり易く訳してみましょう。

「火には五通りの変化があり、火攻めは必ずそれに対応しなければならない。

一、侵入させたスパイや敵中の内通者が放火し、火の手が敵陣内に上がったら、それに応じて直ちに外からも攻めよ。
二、火の手が敵陣内に上がったのに敵兵は静まりかえっているというときは、安易に攻めてはならず、しばらく様子を窺いながら待機せよ。そして、火勢の増減をよく見極めつつ、攻めるべき状況なら攻め、攻めてはならない様子なら止めておけ。
三、火を外側から起こせそうなときは、火の手が敵陣内から上がるのを待たなくていい。チャンスとなる時をみながら火を掛けよ。
四、火は風上から風下へ広がるから、火が風上に発生したときは風下から攻めてはならない。
五、昼の風は長く吹くから利用出来るが、夜になると止むことがあるから注意せよ。

軍隊は、この五通りの火の変化を知っておかねばならない。そして、火攻めの際の技術として身に付けておこう。

こうして、火というものを攻撃の補助に使えるなら聡明だし、水というものを攻撃の補助に使えるなら強力となる。だが、水攻めは敵陣への補給路を断つことまでは出来ても、敵陣に蓄えられた物資や食糧に被害を与え、敵の勢いを奪い取るところまでは出来ない。」

この「火が風上に発生したときは風下から攻めてはならない」という文の「火」は、何らかの発生した「問題」に対する心得に生かせそうです。問題が迫って来る側(風下)に立ったまま解決に当たってはならないと。対策が後手に回って手が付けられなくなる場合などは、風下にいる者が対応していることが原因なのかも知れません。誰ならば風上から落ち着いて取り組めるのか、よく考えて選ぶべきでしょう。(続く)