その153 死地に陥ってこそ、生きのびる力が湧き出てくる!

孫子が活躍した春秋時代、有力諸侯が次々現れて覇を競い、同盟(会盟)を率いて諸侯をとりまとめました(春秋五覇)。天下の秩序を維持した有力諸侯は、覇者や覇王と呼ばれる大人物たちです。その威厳は、九地を知り尽くし、地の利を得るところから起こされました。

そして、覇王の下で働く兵士らは、滅亡の地に投じられ、死地に陥って後に生きのびることになります。厳しい状況が、勝敗を決する勢いを起こしたのです!

《孫子・九地篇その六》
「そこで、諸侯の謀(はかりごと)を知らないようでは、前もって交わりを結べない。山林、険しい土地、沼沢などの地形を知らなければ行軍が出来ない。土地の案内役を用いなければ地の利を得られない。九地の内、一つでも知らなければ覇王の兵ではない。

そもそも覇王の兵が大国を伐(う)てば、その大国の大軍は集合することが出来ない。その威厳が敵に加えられれば、敵はその同盟関係を合流させることが出来ない。そういうことから、天下における外交を争わなくてもよく、天下における権勢を養わなくてもよく、己の抱く私案を信じていけば威厳は(自ずと)敵に加わる。そうして、敵城を抜くことが出来、敵国を破ることが出来るのだ。

法令に無い賞を施し、政令に無い命令を掲げれば、全軍の大部隊を働かせるのに、まるで一人を働かせているかのようになる。兵士らを働かせるには(具体的な)仕事で示し、(抽象的な)言葉で(理由を)告げてはならいい。兵士らを働かせるには有利な事柄を示し、不利な事柄を告げてはならない。

兵士らは、滅亡の地に投じて然(しか)る後に存することになり、死地に陥れて然る後に生きのびることになる。兵士らは、厳しい状況に陥って然る後に勝敗を決せられるようになるのである。」

※原文のキーワード
前もって交わりを結べない…「不能予交」、険しい土地…「険阻」、沼沢…「沮沢」、土地の案内役…「郷導者」、九地…「四五者」、一つでも知らない…「不知一」、その大国の大軍は集まることが出来ない…「其衆不得聚」、敵はその同盟関係を合流させることが出来ない…「其交不得合」、天下における外交を争わなくてもよい…「不争天下之交」、天下における権勢を養わなくてもよい…「不養天下之権」、己の抱く私案を信じていく…「信己之私」、敵城を抜くことが出来る…「其城可抜」、敵国を破ることが出来る…「其国可?(き)」、法令に無い賞を施す…「施無法之賞」、政令に無い命令を掲げる…「懸無政之令」、全軍の大部隊を働かせる…「犯三軍之衆」、まるで一人を働かせているかのようになる…「若使一人」、兵士らを働かせるには(具体的な)仕事で示す…「犯之以事」、(抽象的な)言葉で(理由を)告げてはならない…「勿告以言」、兵士らを働かせるには有利な事柄を示す…「犯之以利」、不利な事柄を告げてはならない…「勿告以害」、厳しい状況に陥る…「陥於害」、勝敗を決せられる…「為勝敗」 (続く)