軍隊を、まるで一人の人間であるかのように、一丸となって動ける組織にするには一体どうしたらいいのでしょうか。孫子は、それを蛇に譬えました。
「戦上手な者は、譬(たと)えれば率然(そつぜん)のようなものだ」と。
率然とは「常山にいる蛇」のことで、常山は河北省曲陽県にある五嶽の一つ恒山(こうざん)のことだそうです。率然は「その頭を攻撃すれば尾が向かって来て、その尾を攻撃すれば頭が向かって来て、その胴体を攻撃すれば頭と尾が向かって来」ます。やられっぱなしということが無く、すかさず反応して敵に向かいます。
でも、それは動物だから出来る事であり、軍隊は個々の人間が集まっているに過ぎないのだから、率然のようにいくはずは無いと考えるのが当然です。
そこで「兵士を率然のようにさせられるだろうか」という質問が出ました。
孫子は「出来る」と答えました。そして「呉人(ごひと)と越人(えつひと)は互いに憎み合っているが、同じ舟に乗って渡ろうとするときに嵐に遭えば、その救い合う様子は、まるで左右の手のようになるではないか」と教えました。
これが有名な呉越同舟です。
通常、人々を離反させまいとすれば、無理矢理繋ぎ止める方法を選んでしまいます。「馬を繋(つな)ぎ車輪を埋め」て、兵士を固めさせます。そうすれば、逃げたり逆らったりすることはあるまいと。ところが、それだと心から一丸になりません。気持ちがバラバラなので「(軍隊の団結にとって)まだ頼みにはならない」のです。
ではどうするべきなのかというと、「勇敢さを整えて一体にさせるには、政治的指導が要る」のです。組織の指導者による教化と統率です。それらがありませんと、一丸・一体にはなりません。その上で「剛強な者にも柔弱な者にも(活躍の場を)得させる」よう、指導者による「地の理の把握が」求められるわけです。
そうして「戦上手な者は、兵士らの手を携えさせ、まるで一人の人間であるかのように使」い、「それは兵士らを、そうせざるを得ないよう仕向けるからである」とのこと。共通の学び、共通の言葉、共通の価値観、共通の目的、共通の目標、共通の危機感などの養成と確立が、その基本となるはずです。(続く)