それから「ある者が質問」しました。「敵が整った大軍で、まさに攻めて来ようとしているときは、どのように対応すればいいのか」。これへの孫子の答は「まず敵の要(かなめ)を奪え。そうすれば、こちらに従うだろう」ということでした。
事前に相手に対する離間策を仕掛ける間も無いまま、逆に整った大軍となって攻めて来るときは、一体どうすればいいのかという問いです。孫子は明快に、「敵の要を奪う」ことに集中せよと回答しました。「敵の要」の原文は「その愛する所(其所愛)」で、要とは相手の最重要箇所のことです。
例えば、一団(グループ)の敵に襲われた際は、一番強そうな奴を倒せという「ケンカの教訓」があります。ある実戦武道の指導者の教えにあったと記憶しています。その一番強そうな者こそ、相手グループの要に違いありません。
一番強そうですから、いきなり自分に向かって来るわけは無いと油断しています。そこで、その要を目がけて一気に攻撃するのです。巧く倒すことが出来れば、他の連中は驚いて戦意喪失するでしょう。反対に、最初は弱そうな奴から倒していこうなんて悠長なことをしていると、疲れ切った頃に強い相手と対決しなければならない事態に陥ります。
孫子は、こうも言いました。「軍隊は本性として迅速を主とする」と。軍隊は本来的にスピードが命であるという意味です。その勢いで「敵の隙に乗じて思いもよらぬ道を通り、無警戒な所を攻め」れば、勝利のほうからやって来ることになります。一番強そうな奴は、慢心してポケットに手を突っ込んだりしていますから、その無警戒な隙が一点突破の要所になるというわけです。(続く)