「九地の法」の続きです。
四、「交地」
味方も行けるし敵も来られるという、往来し易い土地が交地です。どちらからも侵攻が可能な土地ですから、どんどん攻めて行けば、うっかり深入りしてしまいます。そういう場所で注意しなければならないのが、部隊間の連絡を断たれてしまったり、連係がちぐはぐになってしまったりといった事態です。
選挙戦ならば、せめぎ合う各陣営の“草刈り場”になり易い地区が交地でしょう。選挙毎に誰かが“刈り取り”に来るといった流動性の高い地区です。そこへ勢い良く入って行ったところ、味方陣営の一体感が損なわれてしまい、本拠地の地盤固めが疎かになってしまった、などということにならないよう注意しましょう。
五、「衢地(くち)」
諸侯の領地が四方八方に続き、そこに先に至れば天下の衆望を得られるというのが衢地です。諸国が隣接し合う中心地のため、支配者がコロコロ代わり易くて落ち着きがありません。そこで、住民たちは優れた君主の出現を求めています。
この衢地では、外交交渉に努めることが肝要となります。外交を重ね合わせることを、原文では「合交」といいます。合交で主導権を握って貫目(貫禄)を見せれば、衆望(民衆の期待)を集められます。外交で人民に対して、しっかり貫目(貫禄)を見せ付けよというわけです。
選挙戦なら、他の候補者に負けない交渉力を、衢地にあたる地区に住む有権者に示せということになります。頼りになると思われるかどうかです。
六、「重地(ちょうち)」
他国の地に深入りしたことにより、敵の城や村に囲まれることの多いのが重地です。重地は重要な地であり、重要だからこそ獲得したい土地なのです。でも、そこへ辿り着くには深入りせざるを得ず、重地までの間に、多くの敵の城や村を通り過ぎることになります。
孫子は、重地では食糧や物資を現地調達しながら軍を進めよと教えました。但し掠奪はダメで、代価をきちんと支払わねばなりません。売買をきちんとして現地の人民から信頼を受ませんと、戦闘が終了して支配地に組み込むときに、統治を円滑に進められなくなります。
選挙戦では、他陣営の領域に支持基盤を伸ばすときに置き換えられます。金品で無理矢理味方に付けるような“略奪的やり方”は、もってのほかです。こちらの政治信条や理念政策を、ちゃんと分かってくれる有権者を探しながら、着実に信頼の輪を伸ばしていくのが重地における心得となります。(続く)