敵味方の関係は、どんどん移り変わります。戦いは静ではなく、常に動の中にあるのです。そして、戦い方は土地の性格に応じて練らなければなりません。
それを九つに分けて説明したのが「九地の法」です。
一、「散地」
九地の中で散地だけが、自国領内が戦場となります。諸侯がそれぞれ、自国の地で戦う場合のことです。散地には「軍の逃げ散る地」という意味があり、兵士が逃げてしまうから戦いを起こしてはならない土地ということになります。
自国が戦場になるということは、既に敵に侵入されている状態と判断されます。勝ったところで戦利品は無く、疲弊するだけとなるのが散地です。よほど領地の面積が広くて懐が深い国ならともかく、自国領が戦場なのですから劣勢はなかなか覆せません。
もしも兵隊のかなりが傭兵(雇い兵)か、それに近い寄せ集めの軍隊の場合、戦況が不利と見たら兵士はさっさと逃げ出すでしょう。それで、散地では戦ってはならないと注意したのです。逆に、敵の散地では、こちらは戦うべきとなります。
散地を現代の選挙戦に置き換えれば、敵陣営から切り込まれ、地盤が荒らされている状態ということになります。相手の勢いに対して防戦一方となり、防げても現状維持、酷ければ支持者激減といった状況です。
二、「軽地」
敵国の地に入ったものの、まだ深入りしていないのが軽地です。そこでは、敵地に入った緊張感から兵士が浮き立ちます。自国はすぐそこだから、直ちに戻りたいという心細い気持ちが起こるのです。そのような心が軽く浮き立つ様子から軽地と呼ばれました。
軽地では、長く留まらないのが心得です。駐屯を避け、ぐずぐずせず進軍することで、兵士らに覚悟を据えさせていかねばなりません。
これも選挙戦に置き換えれば、選挙事務所に表敬訪問に来てくれた友人・知人らに対する対応に置き換えられます。そのままでは、単なる来客で終わってしまいます。そこで、可能な限り選挙カーに乗って貰うなどしつつ、どんどん前に踏み出していただくのです。
友人や知人らにとって、未知の場所である選挙事務所は、まさに軽地に相当します。選挙事務所に足を運ぶこと自体が何だか気恥ずかしい行為であり、挨拶したら人目に付かないよう、さっさと帰りたいというのが偽らざる心境でしょう。そういう人たちを、しっかりした支援者に導くのが軽地の心得というわけです。
三、「争地」
味方が得ても、敵が得ても利となるのが争地です。敵と激しく奪い合う所となる争地では、敵に先取されたら攻めてはならないとのこと。利となる魅力的な土地ですから、先に取った側は手放さないようガッチリ固めているはずです。
そこへ割り込むのは至難の業(わざ)となるでしょうし、局地の中で硬直する泥仕合ともなりかねません。あくまで相手が先にガッチリ固めた場合の話ですが、そこだけに囚われることなく全体を観ながら他の重要ポイントを探し、今度はこちらがしっかり押さえるよう前に向かえという次第です。(続く)