それから、部下に注意するときの心得ですが、間違いに気付いて既に反省している場合と、事態をよく理解出来ないまま浮ついている場合とでは対応が異なります。
前者には、一通りの注意の後で、労いや励ましの言葉を添えると良いでしょう。落ち込んでいて、反省していることもハッキリしているのですから、むしろ慰めるべきです。
後者に対しては、間違いを覚らせるよう、きちんと叱らなければなりません。勿論ガミガミ言えば済むというものではありませんから、冷静に筋道を通して説明しながら、理でしっかり問題点を指摘する必要があります。
また、初心者にいきなり激しく怒ってはダメで、やっと身に付いた事に対して、誉めながら成長を促す根気が要ります。一番気が緩み易いのは、初心者の段階を超えて仕事に慣れてきた頃です。緩みと慣れでミスを起こしてしまいそうな時期ですから、そろそろ何らかの注意を与えるタイミングが来るなと予想しておくべきでしょう。
これも留意点ですが、組織全体にとって、誉めることでより効果が生まれるのは新人に対してであり、叱って有効なのはベテランに対してです。新人が誉められれば、まだ十分知られていないはずの新人でも認めてくれるのだから、自分たちもがんばろうという気分になります。
一方、ベテランが叱られますと、地位が上の人でもダメなときは注意されるのだから、自分たちも気を付けようという緊張感が生まれます。なお、ベテランを叱るときは、あらかじめ「今日は叱られ役を頼んだよ」と告げておくのも方法です。
それにしても人間心理には、複雑で非常にデリケートなところがあります。誉められることは嬉しいが、叱られる事は嫌というのが当たり前かというと、そうばかりとは言えません。
「この頃、注意してくれなくなって淋しい。叱られないのは見放されたみたいで辛い」などと思うのも人間心理の一つです。努力家で謙虚な部下ほど、誉められることと叱られることの両方を欲しがるようです。努力と成果を認めて貰いたいし、さらなる成長のために直すべき点は率直に指摘して欲しいというわけです。
また、誉めるにしても叱るにしても、前回上手くいった事(言葉や方法)が次回も通用するとは限りません。過去の経験は参考にはなるが、それをそのままやったのでは上手くいかない。そう考え、常に初めての取り組みであると思って相対さなければならないのが人を相手の仕事です。本当にデリケートで大変な作業ですね。(続く)