孫子・地形篇その四の、「兵士」を「部下」に置き換えてみれば次のようになるでしょう。
「部下を赤ちゃんのように大切にすれば、部下はその優しさに感激して、一緒になって困難を乗り越えてくれるだろう。部下を我が子のように慈しめば、部下は一緒になって会社の危機に立ち向かってくれるだろう。
だが、手厚くするばかりで一人前の社会人に育てられず、反発を恐れて指示や命令を出せず、組織が混乱してまとめることが出来ないようでは、まるで我が儘し放題に成長してしまった子供のようなもので全く役に立たない。」
この内容は、有権者を愚民化させてしまう民主政治の注意点そのものと言えます。政治家が「選挙の票」欲しさに有権者におもねり「ばらまき政治」をやればやるほど、市民は義務を放棄して権利ばかり主張するようになります。そうして国家は、内から崩れていくのです。
だからといって、真反対の恐怖弾圧政治をやって、国民の勝手を許さない体制を作れば良いというわけではありません。要は、愛情と威厳のバランスをどう取るかです。
経営や教育の現場も同様で、優しいだけでも怖いだけでもダメです。一方に偏らないよう、片手に思い遣り、もう片手に厳しさを持たねばなりません。
そして、常にその両方を手にしつつ、誉めながら注意し、注意しながら誉めます。また、労(ねぎら)いつつ励まし、励ましつつ労うのです。それを状況に応じて調整し、相手の性格に合わせて加減することが肝腎となります。
タイミングも重要で、認めて貰いたがっているときや、きちんと注意すべき状況を、相手の心理を読みつつ見逃さないよう努めましょう。そうして、誉めることと叱ることの両方を用いつつ、上手にまとめていくのが指導者の仕事です。
実際には、誉めることと叱ることの塩梅(あんばい)は、調整が大変難しいです。「さじ加減」というものは、口でいうほど簡単ではありません。
しかし、リーダーなら兎に角やるしかないのですから、諦めないでしっかり取り組みましょう。試行錯誤を繰り返しつつ、体験を通して学んでいけば、きっと指導者としての器量が養われるはずです。(続く)