その119 人数は多ければいいというものではなく、集中が大事

行軍篇その6では、下記のような心得が述べられています。
・兵士は多ければいいというものではなく、集中が大事。
・兵士がなついていないと、罰を与えるほど動いてくれなくなる。
・法令が信じられないと、人民は付いて来ない。

《孫子・行軍篇その六》
「兵は多いほど益々貴ばれるというものではない。ただ武力で猛進してはいけない。戦力を集中し、敵情を料(はか)れば、相手を奪取するのに十分だ。ところが思慮無く、敵を侮れば、相手の擒(とりこ)となってしまう。

兵士がまだなついていないのに罰してしまうと、心服してくれない。心服してくれなければ、用いるのは難しい。ところが、兵士が既になついているのに罰を行わないでいると、(馴れ合いとなってしまって)用いることは出来ない。そこで、教育で部下と心を合わせ、武威で部下を統制するのであって、そうなれば必勝となる。

法令が普段から行われていて人民に教令すれば、人民は服従する。法令が普段から行われていなければ、人民に教令しても、人民は服従しない。法令が普段から信じられていてこそ、民衆と共に勝利を得られるのである。」

※原文のキーワード
戦力を集中…「併力」、相手を奪取…「取人」、十分…「足」、侮る…「易」、相手…「人」、兵士…「卒」、なついていない…「未親附」、心服してくれない…「不服」、用いることは出来ない…「不可用」、教育で部下と心を合わせ…「合之以文」、部下を統制…「斉之」、必勝…「必取」、法令が普段から行われている…「令素行」、教令…「教」、法令が普段から行われていない…「令不素行」、法令が普段から信じられている…「令素信」、民衆と共に勝利を得られる…「与衆相得」

通常、兵士の数は、少ないより多いほうがいいに決まっています。しかし「兵は多いほど益々貴ばれるというものでは」なく、多勢を誇って「ただ武力で猛進」していたら、たちまち崩れてしまいます。

肝腎なことは、「戦力を集中」させることと、「敵情を料(はか)」ることにあります。そうすれば「相手を奪取するのに十分」となります。「ところが思慮無く、敵を侮れば、相手の擒(とりこ)となってしまう」でしょう。

長所や利点は、慢心によって弱点に早変わりします。こちらの優位に慢心していると、敵に対する備えが緩み、内部に疑い合いや妬み合いが生じ、醜い対立が起こってしまうのです。そうなると、多勢であることが却って短所となり、動きも鈍くなります。

心掛けるべきは、自軍の結束力を高めておくということと、戦力を有効な「場」と「時」に集中させられるよう練っておくことにあります。それを計るため、常に相手の情報を的確に収集しておかねばなりません。

最もいけないのは、指導者に思慮が無いことです。たとえ考えがあっても、部分観と私欲のみ。情勢変化についての大事な情報は、全然聞こうとしないし、そもそも受け入れる器量が無い。敵に対する警戒感は弛みっぱなし。これでは、将軍は敵の捕虜になるしかないというわけです。(続く)