予兆や前兆に敏感になるためには、それを見逃さないためのセンサーが必要となります。センサーとは即ち、状況の変化に対して「これは変だな、おかしいぞ。何か意図があるはずだ」などと受け取る感覚のことです。
「敵が近くにいながら静まりかえっているのは、地形の険しさを頼みにしているからだ」。この意味は、両軍が接近しているにも関わらず敵がひっそりと静まりかえっているのは、地形が険阻であることを頼みにしているに違いないということです。地の利を得て待ち構えていると思われる相手に対して、不用意に攻めてはなりません。
反対に、まだ「遠くにいながら戦いを挑んで来るのは、こちらの進撃を欲している」のです。要するにこちらを誘い出そうとしているのですから、軽はずみに敵の挑発に乗ってはいけません。
また「陣を構えている場所が(攻め易い)平坦な地であるのは、そこに何らかの利があるからだ」という文について。そもそも平坦な地形は、攻撃側にとって攻め易い場所です。そういう不利になる所に、わざわざ布陣するわけがありません。もしかしたら、何か有利になる仕掛けを用意しているのかも知れません。あるいは、利(エサ)を見せて誘い出そうとしている可能性もあります。兎に角、安易に乗せられないよう注意が要ります。
それから、草木や鳥獣の動きから、敵の様子を観察せよとも教えます。ざわざわと「木々が動くのは、敵が来たから」です。「沢山の草による障蔽(しょうへい)が多く」設けられているのは、「(伏兵を)疑わせるため(の仕掛け)である」とのことです。「障蔽」は、草を結び合わせて覆い被せてある仕掛けのことで、これで伏兵がいるかも知れないと相手に疑わせます。
そして、実際に伏兵が潜んでいれば「鳥が飛び立つ」ことになります。「獣が驚いて走るのは、奇襲部隊が来たから」です。
塵埃つまり土煙(つちけむり)の上がり方でも察知出来ることがあります。「塵埃が高く上がって鋭いのは、戦車の襲来」であり、「塵埃が低く広がっているのは、歩兵部隊が来ているの」であり、「塵埃が散らばって細長く上がるのは、敵兵が薪取りをしているの」であり、「少ない塵埃があちこちに行き来するのは、軍営を作ろうとしているのである」とのことです。
重い戦車が勢い良くやって来れば、土煙は高く尖って舞い上がります。歩兵部隊が集団で来れば、土煙は広く垂れるように舞い上がります。敵兵が薪を採っている場合は、採集場所毎に細い筋状の土煙がバラバラに舞い上がります。軍営を作ろうとしているときは、場所の選択であちこちに動くことになり、土煙も移動しながら舞い上がることになります。
こうした状況の変化に対する観察眼を普段から養っていることで、予兆や前兆に対して敏感でいられるという次第です。読者の皆さんにおかれましては、「これが自分なら、我が社なら、何が仕掛けであり土煙だろうか」などと仕事や役割に置き換えてみてください。そうすれば、孫子の知恵をきっと身に付けていただけるでしょう。(続く)