その112 予兆や前兆という「先だって発生する現象」を見逃すな!

孫子の兵法とは、まさに「戦う前に予(あらかじ)め勝っておく」ための心得に他なりません。そのために必要となるのが、小さな現象から次に起きようとしている事を、いち早く読み取る観察力や注意力です。

多くの出来事に、予兆や前兆と呼ばれる「先だって発生する現象」が見られます。それを見逃すことなく観察し、今から何が起ころうとしているのか、相手の意図や狙いはどこにあるのかを察知することが求められます。

我々は思わぬ出来事に遭遇したとき、運悪く身に振り掛かった災難であるかのように嘆きますが、よく考えてみれば、訳も無くいきなり起きたのではなく、大抵は予兆という知らせがあったはずです。あらゆる現象には原因があり、原因は前兆を生み、その知らせを放っておくと、いよいよ災難という結果が導かれてしまうというわけです。

転換期や激変期の政治家や経営者は、予兆や前兆に敏感でなければなりません。常にアンテナを張っておく際の心得を、孫子の教えから学んでまいりましょう。

《孫子・行軍篇その三》
「敵が近くにいながら静まりかえっているのは、地形の険しさを頼みにしているからだ。遠くにいながら戦いを挑んで来るのは、こちらの進撃を欲しているのだ。陣を構えている場所が(攻め易い)平坦な地であるのは、そこに何らかの利があるからだ。

木々が動くのは、敵が来たからだ。沢山の草による障蔽(しょうへい)が多くあるのは、(伏兵を)疑わせるため(の仕掛け)である。鳥が飛び立つのは、伏兵がいるからだ。獣が驚いて走るのは、奇襲部隊が来たからだ。

塵埃(じんあい)が高く上がって鋭いのは、戦車の襲来だ。塵埃が低く広がっているのは、歩兵部隊が来ているのだ。塵埃が散らばって細長く上がるのは、敵兵が薪取りをしているのだ。少ない塵埃があちこちに行き来するのは、軍営を作ろうとしているのである。」

※原文からのキーワード
頼みにする…「恃」、戦いを挑んで来る…「挑戦」、こちらの進撃を欲する…「欲人之進」、陣を構えている場所が(攻め易い)平坦な地…「其所居易」、木々…「衆樹」、沢山の草…「衆草」、障蔽…「障」、鳥が飛び立つ…「鳥起」、伏兵…「伏」、獣が驚いて走る…「獣駭」、奇襲部隊が来た…「覆」、塵埃…「塵埃」、戦車の襲来…「車来」、低く広がる…「卑而広」、歩兵部隊が来ている…「徒来」、細長い…「条」、薪取り…「樵採」、あちこちに行き来…「往来」、軍営を作る…「営軍」(続く)