鍼灸の専門学校に通う内に、ある悩みがわいてきました。学校で学ぶだけでは、「臨床で通用する治療技術」が身に付かないのではないかという疑問です。
学校の成績が多少良くても、実際に患者さんを救うための治療技術が高まるかどうかは違うということです。
手技療法(按摩・マッサージ・指圧)については、授業中に行う「生徒が二人で組んで行う実習」だけでも何とか技量が高まります。それを家族に施せば、さらに技術の体得が進みます。筆者の場合は、郷里に帰省しているときに両親が“実験台”になってくれて、次第に技量が向上しました。ところが、問題は鍼(はり)と灸(きゅう)です。
日本の鍼は、中国の針と比べて大変細く、いきなりブスッと刺せません。繊細に捻(ひね)りながらでないと入っていかず、落ち着いて打てるようになるまでに熟練を要します。灸も、艾(もぐさ)の捻り方が難しく、やはり練習を重ねないと円錐形に整わず、大きさも揃いません。
さらに大変なのがツボ(経穴)の選定です。患者さんの症状に合わせてツボを選び、適切に鍼を打ち、手際よく灸をすえるのは、患者さん相手の臨床を積んではじめて出来ることです。
そこで、放課後のインターン修業が重要になりました。東京でのインターン先は、同級生の何人かが既にお世話になっていた、御茶ノ水駅近くの治療院を紹介してもらいました。そこの院長は気難しいところのある人でしたが、インターン生に鍼をどんどん打たせてくれました。一人の患者さんに100本は打ち、鍼に通電するというやり方でしたから、迷うことなくてきぱき打たざるを得ず、そのお陰で自信をもって鍼を打てるようになった次第です。
また、夏休み等の帰省中は、浜松の治療院でアルバイトをさせてもらいました。
そこは浜松で最も患者数の多い鍼灸治療院で、高校同級生の母親が開業していました。自前のビルの一階が治療院で、治療ベッドが10台ほどあり、鍼灸の有資格者がスタッフとして数名働いていました。
待合室にも、常に人が溢れているほど盛況な治療院です。毎日かなり忙しいのですが、いつも院長先生は落ち着いていてにこやかです。忙しいときにイライラせず、目の前の患者さんに心を込めて治療しつつ、ちゃんと院内全体と待合室にも気を配っていました。そういう余裕(心得)は、この院長先生から学んだことでした。(続く)