天皇は最高の神主として、宮中祭祀を執り行われます。それを巫女として補佐するのが、「内掌典(ないしょうてん)」と呼ばれる女性の内廷職員(現在は5名)です。内掌典は、宮中における祭祀のみを仕事とする女性のことで、神職と巫女を兼ねた存在です。
内掌典がつとめる場所は、宮中祭祀が行われる「宮中三殿」です。宮中三殿は皇居吹上御苑に鎮座するお社の総称で、「賢所(かしこどころ)」、「皇霊殿(こうれいでん)」、「神殿(しんでん)」のことです。
宮内庁ホームページによれば、賢所には皇祖天照大御神がまつられ、皇霊殿には歴代天皇・皇族の御霊がまつられ(崩御・薨去の1年後に合祀)、神殿には国中の神々がまつられています。
神殿の神々は天神地祇(てんじんちぎ)つまり天の神々と国中の神々でありますから、その祈りは大宇宙生成の神々である別天津神(ことあまつかみ)につながっています。
この「天皇の祈り」に、国民がお手本とすべき祈りの基本があります。大宇宙生成の神々や祖神・祖霊とつながることで、ちっぽけな自我を超え、大我や無我の域に到達する生き方が導かれていくことになるのです。
この大切な祭祀を守ることのみを仕事とする女性が、内掌典というわけです。
私は30歳を超えた頃、大和言葉の師匠である河戸博詞先生のお導きにより、宮中祭祀の際の「皇族方の接待役」を数回仰せつかったことがあります。その役目は、宮中三殿ご到着された皇族方のお車のドアを開けることと、控え室にお揃いの皇族方にお茶をお出しすることでした。
お茶は、皇居内の井戸水を使いました。井戸水を用意するため、私は大きなヤカンを持って、女性内廷職員のところに何度も伺います。対応してくださった女性は、おそらく内掌典のお一人であったことと思います。常人ではない風貌は、まさに巫女そのものであったからです。
昔は、心のねじ曲がった者ども(ヘタレ)による施政にする妨害や災害、反乱、侵略の危機に対して、天皇を補佐する巫女たちが問題を予知し、未然に手を打っていたとのことです。
戦後の今は、宮中祭祀は天皇の私的信仰とされ、宮中三殿でご奉仕する掌典や内掌典らは天皇の「私的使用人」とされてしまいました。「天皇ご自身も公務優先ということで祭祀から遠ざけられ、あるべき施政について神意を聴く力も悪霊を祓う力も失われ」てしまったのです。
「天皇の最大の任務は、政務ではなく、祭祀をみずから執り行うこと」にあります。祭祀によって天と人をつなぎながら基本方針を定め、為政者たちの意識レベルを向上させるとともに、臣下臣民の声を聴く(きこしめす)ところに「天皇の伝統的な役割」があったのです。(続く)