「AかBか、白か黒か、賛成か反対か…あなたはどっち?」などと、二者択一を迫る意見が散見されます。どちらか一方を選んだら、もう一方は捨てよという“要求”です。
しかし、現実にはAとB、白と黒、賛成(全肯定)と反対(全否定)の双方を融合するところに真実があったり、中間に正しさ(調和)があったりします。
たとえば、自律神経には活動を司る交感神経と、休息を司る副交感神経があり、二つで一つになっています。双方がバランス良く働くと、心身が健康になります。交感神経か副交感神経か、どちらか一つを選択し他方を捨てれば問題は解決、などというわけにはいかないのです。
また、白か黒か、賛成か反対かについても、大抵はそれらの中間に“程良さ”があります。中間のどこかにバランスを取ることの出来るポイントがあり、「正しさ」はそこに存在しているのではないかと。
この「全体を観ながらバランスを取る」という在り方が二元論によって消え、部分観の影響で損なわれてしまったところに、いわゆる分断化の原因があるのではないでしょうか。
勿論、左右のどちらか一方を選択し、もう一方は捨てるという方法によって、問題解決が図られることがあります。二つを得るというわけにはいかず、どちらかを捨てなければ全てを失ってしまうという岐路に遭遇した場合などです。
そういうときは、当然のこと二者択一しかありませんが、AとBの間、全肯定と全否定の中間に問題解決の落とし所があるというときは、一方の切り捨てでは上手くいかないというわけです。
ともかく、二者択一型の思考回路に陥ってしまいますと、どうしても一方的で極端な意見が多くなり、相手の主張の一部だけ切り取っては非難し合い、自分と異なる見解を全く聞こうとしなくなっていきます。
そうして、思考がすっかり硬直化・固定化すれば、もはや冷静な会話は不可能です。まさにそれは、思考力の劣化状態と言えます。
そこで、AかBかを考えねばならない事態に遭遇したら、「図」を作ってみてはいかがでしょうか。横線を引いて、対立している主張を左右に書いてみるのです。
テーマが「日本人第一」なら、それについての意見として、線の左側に反対、右に賛成の内容を記します。そして、その理由や根拠も入れつつ、自分としては線のどの辺りに“納得”を感じるか、よく考察してみます。
但し、単に中間に位置を取ればそれで良いかというと、必ずしもそうでもありません。適当に中間を選んだところで、それは一番文句が少ない妥協点を見付けただけであって、問題は先送りされる一方となっていることがよくあります。
場当たりな利害調整で終わってしまうかもしれません。
そこで、「賛成」「反対」の横軸に加えて、「高い」「低い」を示す縦軸を加えてみることをお勧めします。「高い」というのは意識レベルが高い(利他共生的)のであり、「低い」というのは意識レベルが低い(自利排他的)ということです。
これら縦軸と横軸を組み合わせると、右上・左上・右下・左下の4マスが出来ます。テーマが「日本人第一」であれば、右上のマスには、日本人本来の真心や、日本社会の相互扶助といった姿勢をまず大切にし、そこから東西文明の共生や人類の幸福を創っていこうという在り方が入ります。
左上のマスには、「日本人第一」には反対であるものの、意識レベルは(世界の調和にあるといった意味で)高い人たちが属します。もう、国家だ、国民だと言っていられる時代ではない。世界全体が一つになって平和を築くべきときなのだから、もはや日本に拘る必要は無いという主張が、その例になるでしょう。
そこには、確かに人類愛という心の「高さ」があります。
これら右上と左上の人たちとであれば、世界の平和と人類の幸福を求めるという点で一致しているのだから、話し合いによる協力は決して不可能ではないと考えます。
目的へのルートが、日本の素晴らしさを生かすところにあるのか、(狭い意味での)日本を超えるところにあるのかという違いはあります。
でも、そもそも日本の素晴らしさを真に生かしたら世界平和に向かえるはずであり、世界平和を願うなら日本の良さを理解出来るはずでしょうから、よほど狭量にならない限り共通の目的に向かえるものと思います。
問題は、意識レベルが低い者同士の場合です。右下のマスには、偏狭なナショナリストが集まります。日本だけ・日本人だけ良ければそれでいいと考え、日本に来る外国人は悪人ばかりといった考えを持っている人たちです。
左下はどうかというと、日本と日本人の悪いところばかり見てしまうグループとなります。日本の伝統精神や国柄が嫌いで、古き良き日本を否定し、日本人を“消滅”させてこそ最高の世界貢献になると思っている人たちがここにいます。
日本人だけ良ければ良いという「日本人第一」賛成派、日本人を消滅させたいという「日本人第一」反対派。これらが噛み合わないのは申すまでもありません。
以上の4マスは、それぞれどうあって欲しいのか…。右上の「日本人第一」に賛成していて且つ意識レベルの高い人たちには、益々良識ある日本人として利他公益に生きていただきたいです。
左上の「日本人第一」に反対しているものの意識レベルは高いという人たちには、人類が仲良く共生するための思想や文化が、古来日本には存在しているという事実を知って欲しいものです。
右下の「日本人第一」に賛成出来るものの意識レベルは低いという人たちには、二元論の落とし穴にはまっていることに早く気付いてもらいたいです。そして、日本思想の幅広さや、東洋的人物の器量の大きさなどについて、今一度学び直してみてはどうでしょうか。
左下の「日本人第一」に反対していて意識レベルが低いという人たちには、(なかなか大変かもしれませんが)日本と日本人の良いところに目を向けていただきたいです。合わせて世界の人々が日本と日本人のどこを評価しているのか、日本の歴史や文化、あるいは日本思想や伝統精神のどこを好きなのかについて調べてみて欲しいです。
とにかく、話し合いにならない分断化は、誰のためにもなりません。一方的な否定や叩き合いのままでは、自滅を待つのみです。部分観によって次代を創る活動を潰してしまうことのないよう、くれぐれも心したいと存じます。