其の百三十二 宇宙の働きは「バランス維持の働き」である…

動いたり休んだり(活動と休息)、息を吐いたり吸ったり(呼息と吸息)、心臓がドキドキ鼓動したり(収縮と弛緩)…。生命現象は、相反する二つの動きのバランスで成り立っています。

「人間の生命現象はバランス維持の働きであることは前に述べた。宇宙生命の働きがバランス維持の働きであることは、つまり、宇宙には相異った二つの力が存在して、互いに拮抗しあっていて、その力の調和維持のために各種の自然現象が起っている。物の消滅も皆この運動の現われに外ならない。存在する形ある物すべての中に、この調和維持の二力が生命力として働いているのである。われわれが言う生命の働きと言うのはこの働きのことである。」
(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房p.104.)

人間の生命活動というものは「相反する二つの動き」のバランスで成立しており、それは宇宙生命体と連動しているとのことです。

宇宙の働きが「バランス維持の働き」であるということは、中国思想の陰陽論がよく説明しています。陰極まれば陽に転じ、陽極まれば陰に転ずるという陰陽循環論です。

陰陽論は物事を二つに分ける見方であると思われがちですが、分類が目的の思想ではありません。存在や作用は、陰陽が合わさって一つになっています。一つの中に、二つの力が作用しているのです。陰陽が互いに拮抗し合うことで、あらゆる存在のバランスが維持され、生命活動や自然現象が成り立っているというわけです。

「物の消滅も皆この運動の現われに外ならない」というのは、死もまた生成発展のための現象であることを意味しています。生成と消滅は、どちらも自然の働きであるという観方が、松下幸之助塾長の思想の中にもあります。国家が発達して生命的寿命体となった社会秩序(ソーシャルシステム)にも、やはり興隆から滅亡に至るエージングが認められます。

では、こうした原理をヨガ修行者はどうやって掴んだのでしょうか?それは冥想によってだそうです。

「この働きが、人間を生かす働きなのであって、ヨガの先達は数千年前にこの生命の事実を冥想によって体感したのである。」
(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房p.104.)

天とつながる冥想によって、バランスを維持しながら生命活動が成されるという真実を、ヨガの先達が体感したのでした。(続く)