「勝負はこの二つの呼吸で決まる」という二つの呼吸は、クムバク(止める息)と吐く息のことです。「ムッ(ンッ)!」と止めた息を、そのまま「ム-ッ…」と吐くことによって、呼吸の流れを上手く作ることが諸芸諸道を体得するコツとなります。
沖正弘導師の教えを、さらに見ていきましょう。
「気分の落着いている程、吐く息に力がはいり、心身の安定しているとき程腰に力がはいって、クムバクができていることになり、ヨガではクムバクは体内の生命力を喚び起す力であると言われ、プラナ・ヤマでは特にクムバクに重点を置いている。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房p.103.)
この文を意訳します。氣分が落ち着き、心身が安定しているときは、吐く息に力が入って腰も安定しており、クムバクによって体の内から生命力が呼び起こされる。宇宙エネルギーであるプラナ(氣)を自己化するプラナ・ヤマにおいて、特にクムバクを重視するのはそのためである。
続いて、吐く息の大切さについてです。
「気合がはいっているというのは吐く息に力がはいっていることであり、あらゆる動作は息を吐く時に行われる。剣道で打つ時も、柔道でなげる時も、ベースボールで球を投げたり、打つ時も、ゴルフで打つ時も、皆この吐く息の時に行われる。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房p.103.)
これも意訳してみます。剣道も柔道も、野球もゴルフも、動作というものは吐く息のときに行われる。「ムッ!」と息を止めて集中し、そのまま「ム-ッ…」と息を吐く。あるいは「メン~!」や「エイッ~!」などと、クンバク同様の集中した状態から息を吐く。それによって心身が統一され、中心力や丹田力が整い、威力が発揮されることになる。
こうして、止息から吐息への「呼吸の流れ」を上手く掴むことが、動作体得のコツになってくるというわけです。(続く)