其の九十八 達人の呼吸は、吐く息にだけ力がはいっている!

達人の呼吸コントロール法とはいかなるものでしょうか。それについて沖正弘導師は、次のように述べています。

「達人の呼吸は、吐く息にだけ力がはいっている。吸い込む息は自然のままである。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房84頁)

吐く息を大事にし、吸う息は自然のままで良いというのです。そして、息を吸ったら、しばらく止めます。それ(止息)をヨガではクンバクといいます。

「この吸い込んだ息を腹のふるえるまで止めて耐えている。これをヨガではクンバクという。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房84頁)

呼吸には、呼気(吐く息)、吸息(吸う息)のほかに、止息(止める息)があります。止息は、統一力を高めて集中するために必要な呼吸です。

「この時全身の力は腰腹の臍下に集約されて、他の部分の力は抜け切っている。手は何もしていないかのように、ゆるやかになっている。この手の力が抜けて事を行っていることがコツである。下手なときほど手、肩、首に力がはいっている。それは意識するからである。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房84~85頁)

止息によって、全身の力が臍下(せいか)すなわちヘソの下の丹田(せいかたんでん)に集中されれば、他の部分の力は抜けていき、当然のこと手の力も抜けます。この「手の力を抜いて事を行う」ところに諸芸のコツがあるというのが、沖導師の教えです。まだ手や肩や首に力が入っているという状態は、意識しなければ動作出来ないくらい下手な段階ということになります。

「上手になればなる程手の力だけでなく、中心つまり丹田を除いたほかのところの力は抜けているのであって、これがすべての諸道のコツに通ずることである。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房85頁)

でも鍛錬稽古を重ねて上手になれば、手ばかりでなく丹田以外の力が抜けていきます。そこに、諸道諸芸のコツがあるというわけです。(続く)