思い通りにならないでイライラしたり、困った事が起きて不安に襲われたりしますと、誰でも息が乱れます。呼吸が小刻みになって眉間に皺(しわ)が寄り、肩に力が入って重心が上がるのです。そういう人が張り詰めた空氣を漂わせますと、周囲にいる人まで緊張してきて落ち着かなくなります。その状態を「息が合わない」と言います。
集団で行うダンスや演武などの場合、最初の内は息が合わずテンポも揃いません。でも、繰り返し練習を続けていると段々上手くなってきて、「息が合ってきた」とか、「息が揃ってきた」などと誉めてもらえるようになります。個人で行う競技の場合も同様で、動きと呼吸が合っていることによる美しさは、見ていて本当に心地良いものです。人(競技者)と場(会場や観客)を、しっかりと一体化させてまります。
それでは、日本ヨガ界の草分け的指導者であった沖正弘導師の、呼吸についての教えを見てみましょう。
「古来芸道のコツは、呼吸をつかむことだといわれている。「呼吸が大事だ」とか、「呼吸がわかった」とか。また「その手で」とか、「その調子で」とか、「呼吸があわない」とか、「気合がはいっていない」などと言われていることは、どれも呼吸との関係を現わしているものであって、この呼吸法をつかんだ人が名人である。しかし、諸芸それぞれの呼吸のリズムは頭で考え把握できるものではない。繰り返して練習をつんでいる間におのずと会得されるものである。
また諸芸に道という語がついている。武道、茶道、華道、書道等の道というのは、それを行うことが健康と悟りへの道に通じていることを示しているのである。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房81頁)
息(いき)は大和言葉であり、「いき」の「い」は行く・生き生きの「い」で前に出て行く積極性を、「き」は木・きつい・厳しいの「き」で強さを意味します。「いき」とは力強く前に出ていくことであり、生きる上で重要な呼吸もそうであることから「いき(息)」と呼んだのでしょう。
食べ物を摂取しなくても(水さえ飲んでいれば)1ヵ月くらいは生きられますが、水が飲めないと3日程度で命の危険にさらされるそうです。呼吸の場合はどうかというと、窒息が15分間続くと死んでしまいます(※何分間かは諸説有り)。「いきのいち(息の内)」が「いのち」になったという語源説があるのも頷けますね。(続く)