「勝負の時には呼吸をリードできた人が勝つ。隙は相手が息を吸いこんでいる時である。息を止めた時に動作の方向をきめ、吐く時に動作を開始する。このリズムを乱してやると、相手の構えは乱れてくるのである。こちらが相手の吸う息、吐く息をリードできたならば相手を支配することができるのである。」(1960沖正弘『ヨガ行法と哲学』霞ヶ関書房76~77頁)
吸息すると、交感神経が刺激されて心身が緊張します。緊張によって身体が硬くなると、動きが鈍くなって隙が出来ます。だから、相手が息を吸い込んで動きの止まった瞬間が、こちらのチャンスとなります。
止息のときは、集中力が高まるので「動作の方向性をきめ」られます。そうして、「吐く時に動作を開始」します。
武道の試合やスポーツで、フェイントやトリッキーな動きを仕掛けるのは、相手の呼吸を乱すためです。ビックリさせれば、相手は吸う息に力が入って動きが止まります。それによって隙を作れば、「相手を支配することができる」ようになるというわけです。
講義も、ビシッと厳しい話をしてみたり、驚くような実例を出してみたりすると、聴衆は次第に緊張してきて「一種の心の隙」が生じます。そのタイミングを捉えて、講師が訴えたい事(対策と希望)をしっかり挟んでいけばよく浸透することになります。
それから、例え話を入れて「へえー」と思っていただいたり、ジョークを挟んで「わはは」と笑っていただいたりしますと、参加者の吐く息が長くなり、副交感神経が刺激されて心身が緩みます。当然のこと、緊張が解けてリラックス(弛緩)し、疲れないで講義を聞いてもらえます。
緊張と弛緩、このバランスが上手く取れれば、講師を中心に「会場の空気」が一つになっていきます。そうして、聴衆の呼吸の主導権を握るということが、講演業を成功させる大事なコツなのです。
また、外交も呼吸です。わざと相手国に期待感を持たせることを言ってみたり、反対に不安にさせるような事を仕掛けてみたりするのは、それによって相手の呼吸を乱し、主導権をこちらが握るためにやっているのです。(続く)